北海道石狩市会社員男性強盗殺人事件は、2005年1月13日に発生した強盗殺人事件。犯人は2021年1月現在も特定されておらず、未解決事件となっている。

【盗んだショベルローダーで走り出す】
 2005年1月13日午前5時50分頃、北海道石狩市にある採石会社「丸井今井工業」の事務所内で、社員の新田猛さん(当時56歳)が頭から血を流して倒れているのを、出勤してきた同僚が発見。新田さんの頭には鈍器のようなもので殴られた痕が数箇所あり、何者かに殺害されたとみられた。新田さんはトラックの配車係をしており、冬場は雪かきのために朝3時~4時くらいに出社していたという。

 同日午前4時頃、上記丸井今井工業事務所から南に約4キロ離れた大型商業施設「ビッグハウス花川店」にて、ATMコーナー周辺の壁がショベルローダーで破壊されているとの通報があった。パトカーが駆けつけるとショベルローダーは現場から逃走し、吹雪の中を約30分チェイスしたが、犯人は最後はショベルローダーを乗り捨てて逃走してしまった。付近での目撃情報から、白いワゴン車に乗り換えて逃走したとされる。

 警察の捜査により、ショベルローダーは丸井今井工業所有のものと判明した。すなわち犯人は事務所に侵入してショベルローダーの鍵を盗み出そうとしたところ、出社していた新田さんに見つかったため殺害し、盗んだショベルローダーを運転してATM襲撃に向かったということである。なお、ATMの現金は奪われることなく、窃盗は未遂に終わった。

【行き先も解らぬまま】
 ショベルローダーとパトカーのカー・チェイスの際、犯人は急停車をしたり、突然バックしたりして、パトカーを巧みに翻弄した。バケットを操作して雪を撒き散らすなどの"テクニック"も見せつけ、重機の運転には慣れていると感じさせる。このショベルローダーを建設現場などで使用するには資格が必要だが、報道によれば北海道内では年間7000~8000人が取得しているという。因みに公道で走行するには別途大型特殊免許も必要となる。

 パトカーはミニパト3台体制での追跡だったが、全長約9メートルで重量21トンという巨大な重機を食い止めるのはあまりにも無理があった。なお、使われたショベルローダーの最高時速は33.5キロとのことで意外とスピードも出せる。

 また、事件当日は猛吹雪であり、追跡した6人の警官は重機を操る犯人の姿をハッキリと確認することはできていない。それに加えて、見失った後に緊急配備も行われたものの、その時点では新田さんの殺害が判明しておらず窃盗未遂事件の扱いだったため対応が手薄になってしまったという。結局、犯人の容姿も、性別さえも、全く情報は出ていない。

 ショベルローダーは元々あった丸井今井工業事務所の付近で乗り捨てられた。事務所に乗り付けた車に乗り換えたのだろう。目撃証言から、犯人が乗り換えた車は白の三菱・デリカと考えられている。ナンバーは不明。報道によれば、事件当時の道内には同型車が約1万8000台登録されており、事件後1年で約1万5000台が調べられたが、犯人に行きつく有力な手掛かりは無かったという。

 事件一ヶ月前の2004年12月や、事件の前日など、丸井今井工業事務所周辺で見慣れない白いワゴン車が出入りしているのが目撃されている。ワゴン車は普段は進入禁止にされている場所を走行しており、明らかに不審な様子だった。この白いワゴン車が三菱・デリカだったとしたら、重機を狙った犯人が現場の下見をしていた可能性も有る。

【捜査】
 2006年2月8日、犯人によるものとみられる遺留品が公開された。事務所近くの路上にあった手袋とガストーチであり、犯人がショベルローダーからワゴン車に乗り換える際に落とした可能性があるという。また、現場に遺された足跡から犯人は25~26センチの長靴を履いていたとみられる。

 凶器は見つかっていない。鈍器のようなものとみられるが、犯人が持ち去ったと思われる。殺害現場にはペンチやドライバーなど多数の工具があったが、いずれも使用されていない。手袋をしていたためか犯人の指紋も一切見つかっていない。

 2007年5月1日から捜査特別報奨金制度がスタート。本事件は制度開始時に対象となった5事件の一つである。制度開始前の2年4ヶ月では61件、制度の対象となってからは1年で41件の情報提供があったと報道されている。社会の関心は確実に高まったと言えようが、提供された情報は"玉石混交"であり、明らかに真実とはいえない情報もあったとのこと。対象とされる期限は原則1年であり、既に本事件は対象から外れた。その後は情報提供も減っており、事件の風化が懸念される。

【その他情報】
 一部報道では、ATM窃盗未遂現場に真っ先に駆けつけた付近の交番のミニパト1台は、重機を追う途中でタイヤがパンクしてしまい、後で調べたところ刃物のようなもので傷をつけられていたと伝えている。もしこの報道が事実であれば本事件は共犯者の存在も考えられるところだ。因みに、使用されたショベルローダーは2人乗りである。

 ATMを重機で強奪するというのは何とも大胆な犯行であるが、実際のところ21世紀以降に日本全国各地で同様の事件が発生している。大掛かりな犯行となるため、ほとんどの事件で犯人は2人以上で、単独犯というのはなかなか無い。本事件の捜査の中で、2004年8月に小樽市のスーパー「ラッキー朝里店」のATMを重機で強奪した事件の再捜査が行われ、2005年4月に犯人が逮捕されたのだが、この事件もやはり2人組による犯行であった。ただし彼らは本事件には関与していないと結論付けられている。

 2010年3月6日未明、札幌市南区にあるスーパー「マックスバリュ石山店」で、クレーン付きのトラックがATMコーナー周辺にバックで突っ込むという事件があった。ATMをワイヤーで引っ掛けて動かそうとした痕跡がみられ、明らかに強盗目的であり、使用されたトラックも盗難車であった。しかしATMは奪われることなく、事件は窃盗未遂で終わっている。

 この事件では、スーパー敷地の出入り口付近に、無数の釘を剣山のように刺した板が数枚置かれていたという。追跡するパトカーのパンクを狙ったと考えられ、この点から本事件との関連性を指摘する声もある。続報を見つけられていないが、この2010年の事件も犯人は捕まっていないようだ。

【リンク】
 北海道警による情報提供呼びかけページは以下。
 https://www.police.pref.hokkaido.lg.jp/incident/02_murder%20case/2005.01.13/2005.01.13.html

【出典】
 朝日新聞2005年1月13日「事務所で社員殺される 重機盗まれATM被害 北海道・石狩」
 毎日新聞2005年1月13日「男性社員、殺される 重機盗難、頭に殴られた跡ーー北海道・石狩の採石会社」

 読売新聞2005年1月13日「石狩で採石会社員、殴殺される 現場の重機盗難、ATMを襲う」 
 朝日新聞2005年1月14日「白ワンボックス車目撃 複数の運転手が情報 石狩の殺害」
 朝日新聞2005年1月14日「重機、自在に操作 パトカー威嚇し逃走 石狩・社員殺害」
 毎日新聞2005年1月14日「北海道・石狩の強殺 ショベル発見後、不審車走り去る」
 毎日新聞2005年1月14日「北海道・石狩の強殺 現場近くに不審車両 事務所前を往復、運転手ら下見の可能性」
 読売新聞2005年1月14日「石狩市の強盗殺人 白いワゴン車の目撃情報追う=北海道」 
 朝日新聞2005年1月15日「目撃された車、三菱デリカか 石狩の殺害現場付近」
 読売新聞2005年1月20日「石狩の強殺 有力情報なし、捜査難航 手がかり「白いワゴン車」だけ=北海道」 
 読売新聞2006年1月13日「石狩の強盗殺人 有力手がかりなく1年 情報求め、現場周辺にチラシ配布=北海道」
 毎日新聞2006年1月14日「北海道・石狩の強殺:事件から1年、手がかりなく難航 ビラ配り「情報を」」
 読売新聞2006年2月9日「石狩の強殺事件 道警が遺留物公開=北海道」 
 読売新聞2007年5月1日「公費懸賞金スタート 05年の石狩強殺事件も対象に=北海道」 
 読売新聞2008年6月7日「公費懸賞金制度1年 石狩市の強盗殺人事件、犯人逮捕はならず=北海道」 
 読売新聞2010年3月6日「盗難トラックがスーパーに突入 札幌=北海道」
 読売新聞2012年1月13日「南区スーパー窃盗 パトカー追跡妨害工作 石狩強殺と共通点=北海道」