2001年9月24日、広島県安芸郡府中町のマンションに住む主婦が失踪した。当日は友人と食事に行く約束をしており、その友人は主婦と電話で連絡を取り合っていたのだが、途中で悲鳴のような声が聞こえたかと思うと、以後連絡がつかなくなってしまった。主婦は何らかの事件にあった可能性がある。

 失踪から数日後には不倫による失踪を匂わせる手紙が届くが、その手紙はワープロ打ちで、内容にも不可解な点が多い。主婦は本当に自発的に失踪したのだろうか。

【不可解な失踪】
 失踪した田辺信子さんは1951年8月8日生まれで、失踪当時50歳。広島県安芸郡府中町青崎のマンションに住んでいた。

 2001年9月24日の朝、友人が信子さんに電話をかけて一緒に食事をしようと誘う。11時20分頃には信子さんから「用意ができた」と返事があり、友人は信子さん宅へ車を走らせた。11時48分、友人のケータイに信子さんから着信有ったが運転中だったため電話は取れず。

 11時50分頃、友人が信子さん宅に着く。早速電話をするも、「あー」という声だけが聞こえて数秒で切れてしまう。友人は不審に思ったが、信子さんはすぐに降りてくるだろうと思い、そのまま車で待った。

 12時過ぎ、なかなか信子さんが降りてこないため、友人から再度電話。やはり「あー」とか「うー」とか悲鳴のような声が聞こえるばかりで数秒で切れる。痺れを切らした友人は信子さんの部屋へ向かったが、カギがかかっていて応答も無く、約束をすっぽかされたと思った友人は怒ってそのまま帰ってしまった。

 同日19時過ぎ、友人は突然連絡の取れなくなった信子さんのことが気になりだした。当時労災により入院していた信子さんの夫に連絡を取り、2人でマンションの部屋を訪れる。

 室内に信子さんの姿はなかった。やはり事件に巻き込まれてしまったのだろうか。しかし、部屋に荒らされた形跡はなく、干しっぱなしの洗濯物や、夫に届けるはずだった着替えなどがそのまま残されており、ごく自然な雰囲気だったという。ただし、夫への見舞金現金25万円や、カード類、ケータイなどが入った信子さんのバッグだけが失くなっていた。

【一通の手紙】
 9月29日、一通の手紙が郵便受けに届いていたことが判明。消印は9月26日で、福山郵便局のもの。内容はワープロ打ちで、「私もやっと妻子と別れ、はれて信子と一緒になることが出来ました。ふたりを探さないで下さい。」と書かれていた。差出人は不明。

 信子さんは不倫相手と失踪してしまったのか。だが、信子さんと親しい友人たちは不倫相手の存在を知らないという。周囲からはおしどり夫婦として知られており、夫が入院するようになってからも信子さんは熱心に看病を続けていた。そんな信子さんに限って、友人との約束をすっぽかしてまで、自ら失踪するなど有り得るだろうか。

【不審な男】
 マンションの防犯カメラから、信子さんが失踪した時間帯にエレベータに乗った60歳前後の男が唯一人だけいることが判明している。そして信子さん自身がエレベータに乗ったことは確認されなかった。マンションには2箇所階段があるものの、信子さんは心臓の病気があり、自ら階段を使うことは考えられないという。一体どうやって信子さんはマンションの外に出たというのか。

 謎の手紙と防犯カメラ映像を根拠として警察に通報が行われ、一応現場検証は行われたが、現場から争いに巻き込まれた様子は伺えなかったため、自発的失踪として処理されてしまった。

 信子さんの父親は娘のためを思って、娘名義の口座に1000万円近い貯金をしていたのだが、その通帳は室内に残されたままで、失踪後も金の出入りは確認されていない。また、信子さんは心臓の他にもいくつかの病気を抱えていたらしいが、病院の診察券はそのまま残され、失踪後に病院にかかった様子もなさそうである。

【親族間トラブルの可能性】
 夫は癌で入退院を繰り返しており、信子さん失踪直前には仕事で指を怪我するという労災で入院していた。しかし、不可解な形で信子さんが失踪してしまい、結局失意のままに病死した。

 次に事件を追ったのは信子さんの兄とその友人たちである。兄の友人が立ち上げたホームページでは、一つの可能性として、夫方の親戚とのトラブルに巻き込まれたのではないかと推理していた。

 それによれば、信子さんは夫方の親戚男性から、義父母(=夫の両親)の遺産相続に関して脅迫を受けていたとされる。その親戚男性は、信子さんの部屋に押しかけてきて「殺すぞ」などと怒鳴ったこともあったという。信子さんの友人がその場に偶然居合わせており、そのときのことを証言した。

 信子さん夫婦に子どもはいなかった。信子さんが愛人と失踪したということにすれば、病気の夫は自らの財産を親戚に対して遺そうとするだろう。それに加えて、義父母の遺産までも狙えるというわけだ。あくまで信子さんの兄とその友人による一方的な推理ではあるが、一応筋は通っているようにも思える。

【参考リンク】
 信子さんの兄の友人によるホームページ。2020年現在は削除されているが、Internet archiveから参照した。
 https://web.archive.org/web/20150225155656/http://universal.raaq.jp/personal/kajitanisan.htm

 ホームページの立ち上げ後、2005年11月にはTVのチカラでも本事件は取り上げられた。同じくInternet archiveによるリンクを貼る。
 https://web.archive.org/web/20071020052231/http://www.tv-asahi.co.jp/telechika/contents/sos/0114/index.html#f1