2017年12月17日、東京都江東区にある富岡八幡宮にて、第21代宮司A(当時58歳)が実弟X(56歳)に刺殺されるという事件が発生した。犯人Xは先代の宮司でもあり、宮司の地位を巡ってトラブルになったとみられる。犯行後にXは共謀した妻Y(49歳)を道連れにして自殺した。
【富岡八幡宮】
富岡八幡宮は東京都江東区は富岡にある八幡神社。「深川八幡宮」という通称でも知られる。夏祭りの「深川八幡祭り」が有名で、参加者は毎年約2万人、見物客は50万人にも達するという。3が日の初詣客も15万人とも30万人に及ぶとも伝えられる。
富岡八幡宮は「別表神社」として高い社格を誇り、遂に第18代宮司である富岡 盛彦は神社本庁の総長(宗教法人としての代表役員)にまで登りつめた。
【第20代宮司】
盛彦の息子である第19代宮司は体調を崩して1994年10月に引退。その長男Xが95年3月に第20代宮司となる。富岡八幡宮は勧進相撲発祥の地として知られており、第20代宮司Xはそれにちなんだ様々な催しを企画する。例えば、新横綱が誕生したときに実際に横綱を呼んで行う土俵入り奉納イベントなど。これにより多くの人を集めることに成功した。
一方で、Xは派手な生活を送っていた。週刊新潮2017年12月21日号の記事では、富岡八幡宮は年末年始のお賽銭だけで10億円、七五三や結婚式なども合わせれば年間数十億円の収入があると見積もっている。金額の真偽はともかくとして、Xはその莫大な収入を使って銀座や錦糸町のクラブで飲み歩いたり、ラスベガスのカジノで使い込むまでしていた。
【第19代宮司の復帰】
Xの放蕩行為を見かねた第19代宮司の意向により、2001年にXの宮司の職階が解かれ、19代が宮司として復帰することとなる。
Xには1億2000万円の退職金が支払われ、その後も年金が毎月30万円支給されていたとされる。しかしそれほどの待遇にあってもXは宮司をクビにされたことに恨みを募らせた。
2006年には「今年中に決着をつける、積年の恨み、地獄へ送る」などと書かれた脅迫状を送りつけるという事件を起こす。この事件でXは逮捕・起訴され、罰金刑が科されている。そしてXは次代の宮司と目される実姉Aにまで恨みを向けることとなる。
【第21代宮司】
2010年、第19代宮司は高齢により再度引退する。そして2012年10月に死去。後継者には禰宜であった長女Aが指名された。しかし神社本庁への具申に対する返答は無く、Aは宮司に就任できなかった。理由は定かではないが、XとAによるトラブルを懸念したと推測されている。A自身は男性社会における女性差別と考えていたようである。
以後も具申が繰り返されるもやはり返答は無く、Aは宮司に就任できず「宮司代務者」のままであり、宮司が空位という異常状態が6年以上も続いた。Aは弁護士を介入させたが、事態が改善することはなかった。
とうとう2017年9月に富岡八幡宮は神社本庁を離脱することを決意する。神社本庁の別表神社ではなく独立した巣立神社となれば、人事について神社本庁へお伺いをたてる必要はなくなる。これにてAは第21代宮司へ就任することができた。しかしかつては「総長」まで務めた有力神社の神社本庁離脱は世間を騒がせることとなった。
【骨肉の争い】
Xによる攻撃はさらに激しくなる。自身は既にクビになり、Xの息子もAと対立して辞めさせられていた。神社本庁を離脱してAが正式に宮司に就任すれば、復帰の目は完全に無くなる。Xの妻Yによる名義でAを誹謗中傷するような内容の「告発状」が神社本庁に送られた。神社本庁の離脱阻止のため必死であった。
一方のAは、Xによる中傷文を自らのブログで公開し、その内容について「妄想」と一蹴した。それでもXによる嫌がらせが止まなかったため、弁護士による警告状を送付した。誹謗中傷を辞めなければ金銭援助を停止するという内容であった。これによりXによる攻撃は一旦収まったという。しかしXの恨みがこれで解消したわけもなく。
【惨劇の夜】
2017年12月7日午後20時25分頃、Aは地域の会合を終えて八幡宮へと帰宅する。そしてAが車から降りたところ、物陰に隠れていたXと妻Yがいきなり飛び出してきた。Xは刃渡り約80センチの日本刀でAを強襲。Aは後頭部付近や胸などを刺され死亡。あまりにも強く切りつけたために日本刀は半分に折れ、あたりは血の海になった。
Yは車の運転手(富岡八幡宮の禰宜でもある)を狙った。約100メートルを追いかけ、刃渡り約45センチの日本刀で右腕を切りつける。しかしYは「お前だけは許してやる!」と叫ぶとその場を立ち去った。運転手は重傷を負ったものの、一命を取り留めることができた。
襲撃を終えたXとYは八幡宮敷地内にあるAの住居前にやってくる。そしてXはYの胸や腹を刺して殺害。最後は自らの左胸を刺して「自害」した。自殺現場には日本刀の他に2本のサバイバルナイフが残されていたという。襲撃から自殺までわずか5分ほどの凶行であった。
2018年1月29日、警視庁は殺人や殺人未遂などの容疑でXとYについて書類送検。XについてはYの嘱託殺人でも送検されている。2018年9月28日、容疑者死亡により不起訴処分。事件はクローズした。
【怨霊となり、祟り続ける】
事件から2日後の12月9日、全国神社関係者だけでなく氏子の関係先の飲食店や学校に至るまで、Xによる手紙が届けられた。手紙には「私は死後に於いてもこの世に残り、怨霊となり、永遠に祟り続けます」などと書かれ、Aの追放とXの息子の宮司就任を要求する内容であった。手紙は代行業者に「東京都江東区以外のポストから」12月8日に投函するよう事件前から指示されていたとのこと。送られた手紙は2800通にも及ぶという。
XとYが住む近所のマンションからは、Yの名義で「積年の恨みからAを殺害することにいたしました」「自害できない場合は夫であるXにその幇助を依頼しております」などと書かれた「遺書」が見つかった。また、そのマンションは襲撃現場付近を見渡すことができ、複数の刃物や双眼鏡も見つかったことから、襲撃事件のアジトのようにして使っていたと見做されている。XとYによる凄まじい執念と怨念を感じさせる。
【事件後】
12月9日には、ナンバー2にあたる権宮司を務めていた丸山 聡一が宮司代務者となることが決定した。丸山はそのまま2018年8月に第22代宮司に就任する。神事は何事もなかったかのように普段どおりに執り行われた。しかし事件直後の正月は参拝客が減り、例年の3割減とも、10分の1とも報じられている。いずれにせよ収入は大きく減ったであろう。
Aが住居として使用していた敷地内にある豪華な洋館は解体された。富岡八幡宮は富岡家の手を離れ、一からの信頼回復を目指している。
【参考リンク】
富岡八幡宮の公式サイトは以下。
http://www.tomiokahachimangu.or.jp/
【参考文献】
朝日新聞2017年12月8日「富岡八幡宮事件、宮司ら3人の死亡確認 容疑の弟自殺か」
時事通信2017年12月8日「姉弟間で過去にもトラブル=宮司人事で神社本庁離脱も-富岡八幡宮」
毎日新聞2017年12月8日「東京・富岡八幡宮の宮司刺殺:日本刀で待ち伏せ 姉妹トラブルか」
読売新聞2017年12月8日「富岡八幡宮司 刺殺 江東 容疑の弟ら2人死亡」
読売新聞2017年12月8日「刺殺の姉、警察に02年相談 富岡八幡宮 宮司職 弟が恨みか」
週刊朝日2017年12月9日「富岡八幡宮殺人 チャンバラ好きの弟が日本刀で宮司の姉の首を切った本当の動機」
毎日新聞2017年12月9日「東京・富岡八幡宮の宮司刺殺:宮司職巡りトラブル 自殺の弟、復帰できず姉恨む?」
週刊朝日2017年12月11日「富岡八幡宮の姉弟の骨肉の争い 日本刀に込められた怨念」
朝日新聞2017年12月12日「宮司殺害、マンションに手紙と刃物 容疑者夫婦の拠点か」
毎日新聞2017年12月12日「東京・富岡八幡宮の宮司刺殺:襲撃から自殺、3分 綿密に計画か」
毎日新聞2017年12月12日「東京・富岡八幡宮の宮司刺殺:マンション借り姉監視 容疑者5ヶ月間 室内から決意メモ」
産経ニュース2017年12月15日「自殺の元宮司、全国の神社関係者に手紙約2800通知送付 「怨霊となり、たたり続ける」」
週刊新潮2017年12月21日「年間収入数十億円の「富岡八幡宮」ファミリー 殺人に発展した姉弟の確執」
産経ニュース2017年12月28日「富岡八幡宮司刺殺「たたり続ける」元宮司が自害前に書いたドロドロ過ぎる手紙」
朝日新聞2018年1月29日「宮司殺害容疑、死亡の弟らを書類送検 富岡八幡宮の事件」
読売新聞2018年1月29日「富岡八幡宮殺傷 弟らを書類送検」
読売新聞2018年9月29日「富岡八幡宮殺傷 死亡の弟ら不起訴」
【富岡八幡宮】
富岡八幡宮は東京都江東区は富岡にある八幡神社。「深川八幡宮」という通称でも知られる。夏祭りの「深川八幡祭り」が有名で、参加者は毎年約2万人、見物客は50万人にも達するという。3が日の初詣客も15万人とも30万人に及ぶとも伝えられる。
富岡八幡宮は「別表神社」として高い社格を誇り、遂に第18代宮司である富岡 盛彦は神社本庁の総長(宗教法人としての代表役員)にまで登りつめた。
【第20代宮司】
盛彦の息子である第19代宮司は体調を崩して1994年10月に引退。その長男Xが95年3月に第20代宮司となる。富岡八幡宮は勧進相撲発祥の地として知られており、第20代宮司Xはそれにちなんだ様々な催しを企画する。例えば、新横綱が誕生したときに実際に横綱を呼んで行う土俵入り奉納イベントなど。これにより多くの人を集めることに成功した。
一方で、Xは派手な生活を送っていた。週刊新潮2017年12月21日号の記事では、富岡八幡宮は年末年始のお賽銭だけで10億円、七五三や結婚式なども合わせれば年間数十億円の収入があると見積もっている。金額の真偽はともかくとして、Xはその莫大な収入を使って銀座や錦糸町のクラブで飲み歩いたり、ラスベガスのカジノで使い込むまでしていた。
【第19代宮司の復帰】
Xの放蕩行為を見かねた第19代宮司の意向により、2001年にXの宮司の職階が解かれ、19代が宮司として復帰することとなる。
Xには1億2000万円の退職金が支払われ、その後も年金が毎月30万円支給されていたとされる。しかしそれほどの待遇にあってもXは宮司をクビにされたことに恨みを募らせた。
2006年には「今年中に決着をつける、積年の恨み、地獄へ送る」などと書かれた脅迫状を送りつけるという事件を起こす。この事件でXは逮捕・起訴され、罰金刑が科されている。そしてXは次代の宮司と目される実姉Aにまで恨みを向けることとなる。
【第21代宮司】
2010年、第19代宮司は高齢により再度引退する。そして2012年10月に死去。後継者には禰宜であった長女Aが指名された。しかし神社本庁への具申に対する返答は無く、Aは宮司に就任できなかった。理由は定かではないが、XとAによるトラブルを懸念したと推測されている。A自身は男性社会における女性差別と考えていたようである。
以後も具申が繰り返されるもやはり返答は無く、Aは宮司に就任できず「宮司代務者」のままであり、宮司が空位という異常状態が6年以上も続いた。Aは弁護士を介入させたが、事態が改善することはなかった。
とうとう2017年9月に富岡八幡宮は神社本庁を離脱することを決意する。神社本庁の別表神社ではなく独立した巣立神社となれば、人事について神社本庁へお伺いをたてる必要はなくなる。これにてAは第21代宮司へ就任することができた。しかしかつては「総長」まで務めた有力神社の神社本庁離脱は世間を騒がせることとなった。
【骨肉の争い】
Xによる攻撃はさらに激しくなる。自身は既にクビになり、Xの息子もAと対立して辞めさせられていた。神社本庁を離脱してAが正式に宮司に就任すれば、復帰の目は完全に無くなる。Xの妻Yによる名義でAを誹謗中傷するような内容の「告発状」が神社本庁に送られた。神社本庁の離脱阻止のため必死であった。
一方のAは、Xによる中傷文を自らのブログで公開し、その内容について「妄想」と一蹴した。それでもXによる嫌がらせが止まなかったため、弁護士による警告状を送付した。誹謗中傷を辞めなければ金銭援助を停止するという内容であった。これによりXによる攻撃は一旦収まったという。しかしXの恨みがこれで解消したわけもなく。
【惨劇の夜】
2017年12月7日午後20時25分頃、Aは地域の会合を終えて八幡宮へと帰宅する。そしてAが車から降りたところ、物陰に隠れていたXと妻Yがいきなり飛び出してきた。Xは刃渡り約80センチの日本刀でAを強襲。Aは後頭部付近や胸などを刺され死亡。あまりにも強く切りつけたために日本刀は半分に折れ、あたりは血の海になった。
Yは車の運転手(富岡八幡宮の禰宜でもある)を狙った。約100メートルを追いかけ、刃渡り約45センチの日本刀で右腕を切りつける。しかしYは「お前だけは許してやる!」と叫ぶとその場を立ち去った。運転手は重傷を負ったものの、一命を取り留めることができた。
襲撃を終えたXとYは八幡宮敷地内にあるAの住居前にやってくる。そしてXはYの胸や腹を刺して殺害。最後は自らの左胸を刺して「自害」した。自殺現場には日本刀の他に2本のサバイバルナイフが残されていたという。襲撃から自殺までわずか5分ほどの凶行であった。
2018年1月29日、警視庁は殺人や殺人未遂などの容疑でXとYについて書類送検。XについてはYの嘱託殺人でも送検されている。2018年9月28日、容疑者死亡により不起訴処分。事件はクローズした。
【怨霊となり、祟り続ける】
事件から2日後の12月9日、全国神社関係者だけでなく氏子の関係先の飲食店や学校に至るまで、Xによる手紙が届けられた。手紙には「私は死後に於いてもこの世に残り、怨霊となり、永遠に祟り続けます」などと書かれ、Aの追放とXの息子の宮司就任を要求する内容であった。手紙は代行業者に「東京都江東区以外のポストから」12月8日に投函するよう事件前から指示されていたとのこと。送られた手紙は2800通にも及ぶという。
XとYが住む近所のマンションからは、Yの名義で「積年の恨みからAを殺害することにいたしました」「自害できない場合は夫であるXにその幇助を依頼しております」などと書かれた「遺書」が見つかった。また、そのマンションは襲撃現場付近を見渡すことができ、複数の刃物や双眼鏡も見つかったことから、襲撃事件のアジトのようにして使っていたと見做されている。XとYによる凄まじい執念と怨念を感じさせる。
【事件後】
12月9日には、ナンバー2にあたる権宮司を務めていた丸山 聡一が宮司代務者となることが決定した。丸山はそのまま2018年8月に第22代宮司に就任する。神事は何事もなかったかのように普段どおりに執り行われた。しかし事件直後の正月は参拝客が減り、例年の3割減とも、10分の1とも報じられている。いずれにせよ収入は大きく減ったであろう。
Aが住居として使用していた敷地内にある豪華な洋館は解体された。富岡八幡宮は富岡家の手を離れ、一からの信頼回復を目指している。
【参考リンク】
富岡八幡宮の公式サイトは以下。
http://www.tomiokahachimangu.or.jp/
【参考文献】
朝日新聞2017年12月8日「富岡八幡宮事件、宮司ら3人の死亡確認 容疑の弟自殺か」
時事通信2017年12月8日「姉弟間で過去にもトラブル=宮司人事で神社本庁離脱も-富岡八幡宮」
毎日新聞2017年12月8日「東京・富岡八幡宮の宮司刺殺:日本刀で待ち伏せ 姉妹トラブルか」
読売新聞2017年12月8日「富岡八幡宮司 刺殺 江東 容疑の弟ら2人死亡」
読売新聞2017年12月8日「刺殺の姉、警察に02年相談 富岡八幡宮 宮司職 弟が恨みか」
週刊朝日2017年12月9日「富岡八幡宮殺人 チャンバラ好きの弟が日本刀で宮司の姉の首を切った本当の動機」
毎日新聞2017年12月9日「東京・富岡八幡宮の宮司刺殺:宮司職巡りトラブル 自殺の弟、復帰できず姉恨む?」
週刊朝日2017年12月11日「富岡八幡宮の姉弟の骨肉の争い 日本刀に込められた怨念」
朝日新聞2017年12月12日「宮司殺害、マンションに手紙と刃物 容疑者夫婦の拠点か」
毎日新聞2017年12月12日「東京・富岡八幡宮の宮司刺殺:襲撃から自殺、3分 綿密に計画か」
毎日新聞2017年12月12日「東京・富岡八幡宮の宮司刺殺:マンション借り姉監視 容疑者5ヶ月間 室内から決意メモ」
産経ニュース2017年12月15日「自殺の元宮司、全国の神社関係者に手紙約2800通知送付 「怨霊となり、たたり続ける」」
週刊新潮2017年12月21日「年間収入数十億円の「富岡八幡宮」ファミリー 殺人に発展した姉弟の確執」
産経ニュース2017年12月28日「富岡八幡宮司刺殺「たたり続ける」元宮司が自害前に書いたドロドロ過ぎる手紙」
朝日新聞2018年1月29日「宮司殺害容疑、死亡の弟らを書類送検 富岡八幡宮の事件」
読売新聞2018年1月29日「富岡八幡宮殺傷 弟らを書類送検」
読売新聞2018年9月29日「富岡八幡宮殺傷 死亡の弟ら不起訴」