2000年5月4日深夜、茨城県牛久市にて、17歳の男性が4人組の男にリンチを受けて殺害された。犯人は2020年現在も逮捕されていない。未解決事件。

【深夜のリンチ】
 2020年5月4日午前0時30分頃、土木作業員の藤井 大樹さん(当時17歳)とその交際相手の女性が、茨城県牛久市中央にあるスーパーマーケット「マルヤ牛久店」を訪れた。

 2人がジュースを買っていると突然4人組の男が因縁をつけてきた。2人はそのまま非常階段へと連れ込まれる。女性は犯人のうち1人に拘束されてしまい、藤井さんは頭部を壁へ打ち付けられてその場に倒れ込むと、以後およそ30分に渡って延々と暴行を受けた。藤井さんはほとんど抵抗できなかった。

 リンチを終えると、4人組は藤井さんの所持金数千円を奪って逃走。藤井さんは顔が約2倍に膨れ上がっており、意識不明の重体。階段には大量の血痕が残っていた一方で、体から下はほとんど傷は無かったという。すなわち藤井さんは顔面ばかり集中的に狙われたのだった。解放された交際女性が近隣住宅に駆け込んで110番通報し、藤井さんは病院に運ばれたが、9日後の2000年5月13日午前1時に脳挫傷で死亡した。

【犯人捕まらず】
 交際女性の証言を元に、犯人A(短髪)と犯人C(坊ちゃん刈りメガネ)の似顔絵が作成された。茨城県警が犯人2人の似顔絵で聞き込みを始めると、事件の2時間前にAとCが近所のコンビニに立ち寄ったことが判明。コンビニの防犯カメラには男5人組が映っており、交際女性はそのうち4人が犯人であると証言した。この証言から犯人B(長髪)と犯人D(茶髪)の似顔絵も作成された。

 しかし捜査はここで行き詰まってしまう。県警は犯人グループが未成年である可能性が高いと考え、似顔絵公開の是非を警察庁に確認したところ、警察庁は「消極的に解する」と回答したのである。県警はそれに従って、犯人4人組の似顔絵を載せたビラやポスターの類を作成しなかった。

 警察庁が少年事件の情報公開に消極的な理由は「犯罪捜査規範」の第202条以下にある。しかし全ての少年犯罪が一律に非公開となるわけではなく、2000年8月に都内で芸能リポーターが2人組の男に襲われた事件では、犯人2人の似顔絵が事件半年後に公開されている。警察庁としては、事件の内容や捜査の必要性から総合的に判断するよう指導しているとのこと。

 茨城県警竜ケ崎署は、独自の判断でホームページに4人の似顔絵を公開して情報提供を呼びかけた。しかしやはりビラやポスターの類は作成されなかった。2001年5月12日付の毎日新聞の記事によれば、藤井さんの両親が「1カ月ほど前に飲食店で4人の似顔絵が張ってあるのを見つけ、署に問い合わせたら、『少年法の規定で公開できない』とはがされてしまった。どうして公開できないのか不思議だ。ホームページが良くて、ポスターやビラが駄目な理由が分からない」と述べている。どうもちぐはぐな対応が目立つ。そして竜ケ崎署ホームページの似顔絵も、「少年事件の可能性が高まった」などという理由で非公開になってしまった。

【似顔絵公開まで】
 一旦公開された似顔絵が非公開となり、再公開されるまでには長い時間を要した。

 2003年末になり、警察庁は「再犯の畏れが認められる事件に関しては公開する」と方針を変更。2005年7月4日に放送されたテレビ朝日「奇跡の扉 TVのチカラ」によれば、この方針を変更を知った藤井さんの両親が茨城県警に嘆願したことで、2005年5月13日から4人の似顔絵が再公開されるに至った。

 しかしそれでも犯人は逮捕できない。似顔絵の公開も遅すぎたが、そもそもより詳細な情報が含まれている防犯カメラ映像の公開が期待されるところ、そちらは何故かいつまで経っても非公開のままであった。

【映像公開まで】
 2010年に刑事訴訟法が改正され、最高刑が死刑である事件の公訴時効は撤廃された。強盗致死事件である本件も公訴時効は無くなり、犯人逮捕まで捜査は継続する。

 2016年11月、防犯カメラの映像から静止画が公開された。そして2017年5月2日には県警ホームページで遂に防犯カメラ映像(動画)を公開。2017年10月末にはyoutubeに茨城警察公式チャンネルが開設され、動画第一弾として本事件の防犯カメラ映像が投稿された。

 静止画の公開以降、情報提供は数件寄せられたという。しかし公開があまりにも遅すぎたと言わざるを得ない。かつての少年たちは既に30代後半~40代になっていると思われる。県警ホームページでは加齢を考慮した似顔絵も掲載されているが、それも今更感は否めない。2010年刑事訴訟法改正まで強盗致死罪の公訴時効は15年だった。法改正がなければ公訴時効まで非公開にするつもりだったのではないだろうか。

【現在】
 2020年現在も犯人は1人も逮捕されていない。遺族はビラ配りをするなどして情報提供呼びかけを続けている。

 上記「TVのチカラ」によれば、犯人たちは藤井さんに対して「お前が牛久の頭か?」と因縁をつけてきたという。その他の状況を考慮しても、犯人たちは牛久市か近隣市町村出身の可能性は高いと思われる。また同番組によれば、被害者女性は警察でアルバムを見せられており、犯人と思われる男を確認しているとのこと。つまり警察は「重要参考人」の氏名を掴んでいるはずなのだが…?

【牛久市の少年事件】
 本事件の1年半前、1998年10月、牛久市内の中学校で男子生徒が同級生男子から殴打されて死亡する事件が発生している。詳細は別途記事にするつもりだが、この事件の加害者男子は現職警察官の息子であり、地検への送致書には「父兄が警察官という環境もあり今後少年の立ち直りが十分に期待できる」などという理由で情状酌量を求める意見書が添付されるという「特別待遇」があった。また、被害者の両親には碌な説明も無いまま、加害者男子の一方的な証言から捜査が進められるなどした。

 こうした事件が起こっているだけに、茨城県警の少年事件に対する捜査姿勢にはどうしても疑問が生じる。本事件の「重要参考人」である少年たちの親族に警察関係者がいるのでは、と勘ぐりたくもなるものだ。

【参考リンク】
 茨城県警ホームページよる本事件の情報提供呼びかけページは以下。なお、本事件は牛久市で発生したが管轄は竜ヶ崎署である。牛久署ができたのは2005年4月。それまで牛久市内の事件は竜ヶ崎署が管轄だった。
https://www.pref.ibaraki.jp/kenkei/a04_jiken/atrocious_crime/heisei16/ushiku.html

茨城県警察公式チャンネルによる本事件の動画は以下。


【出典】
 茨城新聞2000年5月5日「少年殴られ重傷 牛久・4人組逃走」
 朝日新聞2000年5月14日「17歳、暴行受け死亡 少年?4人組が逃走 茨城・牛久」
 読売新聞2000年5月14日「牛久で暴行被害、大けがの17歳死亡 竜ヶ崎署4容疑者の行方追う」
 茨城新聞2000年5月14日「暴行重体の17歳死亡 竜ヶ崎署 似顔絵公開し捜査」
 毎日新聞2001年5月12日「17歳暴行死:ネットはOK、ビラはダメ 茨城県警竜ケ崎署」
 朝日新聞2004年5月12日「凶悪事件の似顔絵 少年も公開 茨城県警、初適用」
 産経新聞2004年5月12日「暴行死事件、強盗致死容疑で少年ら4人の似顔絵公開 茨城県警」
 読売新聞2004年5月12日「強盗致死容疑少年の似顔絵、茨城県警が公開 警察庁通達を初適用」
 朝日新聞2004年5月12日「凶悪事件の似顔絵、少年も公開 茨城県警、初適用」
 
テレビ朝日2005年7月4日放送「奇跡の扉 TVのチカラ」ホームページ(Internet archiveの記録)
 https://web.archive.org/web/20050708012036/https://www.tv-asahi.co.jp/telechika/contents/sos/0101/index.html
 朝日新聞2017年5月4日「17年前の強盗致死事件、茨城県警が防犯カメラ動画公開」
 朝日新聞2017年11月3日「17年前牛久で発生 強盗致死事件に絡む動画公開」
 読売新聞2017年11月30日「情報求め新手段 ユーチューブで 未解決事件を公開 県警」
 産経新聞2017年12月13日「17年前の強盗致死事件、重要参考人の動画投稿 茨城県警公式ユーチューブで「無念晴らしたい」」