2005年7月1日、奈良県において、55歳の男性が脅迫容疑で逮捕された。男性の容疑は、歩道を2歳の息子と一緒に歩いていた主婦に対して、すれ違いざまに「誘拐するぞ」と脅したとしたというもの。男性は取り調べで容疑を認めたものの、公判では一転して否認に転じる。
【事件発生】
容疑者の男性X(当時55歳)は近畿大学の助教授。Xは、2005年7月1日午後13時50分頃、奈良県奈良市富雄北の歩道で、2歳の息子と一緒に歩いていた主婦に対してすれ違いざまに「誘拐するぞ」と脅したとされる。主婦はすぐさま110番通報し、Xは警察署まで任意同行して逮捕された。
Xはその後釈放されるも書類送検され、2006年2月20日になってから在宅起訴された。検察は8ヶ月間も慎重に捜査した上で、立件可能と判断して起訴に踏み切ったようである。
【公判】
2006年4月13日、初公判。弁護側はXの声かけについて、子どもと離れて歩いていた主婦に対して「手を離さない、目を離さない」と注意しただけだとして一貫して無罪を主張した。
2006年9月14日、論告求刑公判。検察は「子どもの安全を守る取り組みを続ける地域社会への挑戦で、被害者に与えた恐怖は甚大」として罰金20万円を求刑した。
【判決】
2006年10月5日、奈良地裁判決。無罪判決。
判決では主婦の証言の正確性・客観性が疑問視された。主婦は「15~18メートルの距離で被告Xがにやにやして近づいてきて、恐怖感を持った」と証言したが、判決はその距離で本当にXの表情を判別できたのか疑わしいとした。主婦は、Xが当時かぶっていた帽子も覚えていなかった。また、すれ違う前から恐怖心を持っていたのにXの言葉を正確に聞き取ったとは考え難いとされた。2004年11月に奈良小1女児殺害事件が発生しており、「先入観から聞き間違えたとの疑いが生じる」と断じた。
Xが逮捕当初に犯行を認めていた点について、判決では「軽微な事案のために自白すれば起訴は免れると考えていた可能性があり、犯行動機も無い」と指摘した。
2006年10月17日、奈良地検は「主婦の証言を補充する新証拠が見つからなかった」として控訴しない方針を発表。Xの無罪は確定した。
【声かけ禁止条例】
事件の起こった前日2005年6月30日は、奈良県議会で「子どもを犯罪の被害から守る条例」が可決していた。同条例は「子どもに不安を与える行為」や「子どもを威迫する行為」を禁止するもの。
Xの弁護士は、本事案は逮捕・起訴するような内容ではなく、警察・検察が同条例を意識しすぎて過剰反応したと批判した。
【その後】
Xが逮捕された直後から家族や近所の住人たちは無罪を求めて署名を集めた。署名は2ヶ月で7000人分も集まったという。Xは「支援者のおかげで地域から孤立している気はしなかった」と感謝し、「うっかり子どもに注意できない時代なんだな」とコメントした。休職を余儀なくされていた大学には無事に復職している。
【参考】
奈良県警のページ。子どもや女性に対する「つきまとい」や「声かけ」など不審者情報の一覧。
http://www.police.pref.nara.jp/category/1-35-2-0-0.html
【出典】
読売新聞2005年7月2日「「誘拐するぞ」と脅迫 近大助教授を逮捕/奈良県警」
読売新聞2006年4月14日「「誘拐する」と脅迫 近大助教授が否認 地裁で初公判=奈良」
読売新聞2006年9月15日「「誘拐脅し」の近畿大助教授 罰金20万円を求刑 弁護側は無罪主張=奈良」
読売新聞2006年10月5日「道で母子に「誘拐するぞ」、脅迫罪起訴 近大助教授に無罪/奈良地裁」
朝日新聞2006年10月5日「声かけで「脅迫」の近大助教授に無罪 奈良地裁」
朝日新聞2006年10月5日「「うっかり子どもに注意できない」 声かけ「脅迫」無罪」
朝日新聞2006年10月17日「声かけの大学助教授、無罪確定へ 奈良地検 控訴せず」
読売新聞2006年11月7日「無罪確定のX近大助教授、復職へ/奈良」
【事件発生】
容疑者の男性X(当時55歳)は近畿大学の助教授。Xは、2005年7月1日午後13時50分頃、奈良県奈良市富雄北の歩道で、2歳の息子と一緒に歩いていた主婦に対してすれ違いざまに「誘拐するぞ」と脅したとされる。主婦はすぐさま110番通報し、Xは警察署まで任意同行して逮捕された。
Xはその後釈放されるも書類送検され、2006年2月20日になってから在宅起訴された。検察は8ヶ月間も慎重に捜査した上で、立件可能と判断して起訴に踏み切ったようである。
【公判】
2006年4月13日、初公判。弁護側はXの声かけについて、子どもと離れて歩いていた主婦に対して「手を離さない、目を離さない」と注意しただけだとして一貫して無罪を主張した。
2006年9月14日、論告求刑公判。検察は「子どもの安全を守る取り組みを続ける地域社会への挑戦で、被害者に与えた恐怖は甚大」として罰金20万円を求刑した。
【判決】
2006年10月5日、奈良地裁判決。無罪判決。
判決では主婦の証言の正確性・客観性が疑問視された。主婦は「15~18メートルの距離で被告Xがにやにやして近づいてきて、恐怖感を持った」と証言したが、判決はその距離で本当にXの表情を判別できたのか疑わしいとした。主婦は、Xが当時かぶっていた帽子も覚えていなかった。また、すれ違う前から恐怖心を持っていたのにXの言葉を正確に聞き取ったとは考え難いとされた。2004年11月に奈良小1女児殺害事件が発生しており、「先入観から聞き間違えたとの疑いが生じる」と断じた。
Xが逮捕当初に犯行を認めていた点について、判決では「軽微な事案のために自白すれば起訴は免れると考えていた可能性があり、犯行動機も無い」と指摘した。
2006年10月17日、奈良地検は「主婦の証言を補充する新証拠が見つからなかった」として控訴しない方針を発表。Xの無罪は確定した。
【声かけ禁止条例】
事件の起こった前日2005年6月30日は、奈良県議会で「子どもを犯罪の被害から守る条例」が可決していた。同条例は「子どもに不安を与える行為」や「子どもを威迫する行為」を禁止するもの。
Xの弁護士は、本事案は逮捕・起訴するような内容ではなく、警察・検察が同条例を意識しすぎて過剰反応したと批判した。
【その後】
Xが逮捕された直後から家族や近所の住人たちは無罪を求めて署名を集めた。署名は2ヶ月で7000人分も集まったという。Xは「支援者のおかげで地域から孤立している気はしなかった」と感謝し、「うっかり子どもに注意できない時代なんだな」とコメントした。休職を余儀なくされていた大学には無事に復職している。
【参考】
奈良県警のページ。子どもや女性に対する「つきまとい」や「声かけ」など不審者情報の一覧。
http://www.police.pref.nara.jp/category/1-35-2-0-0.html
【出典】
読売新聞2005年7月2日「「誘拐するぞ」と脅迫 近大助教授を逮捕/奈良県警」
読売新聞2006年4月14日「「誘拐する」と脅迫 近大助教授が否認 地裁で初公判=奈良」
読売新聞2006年9月15日「「誘拐脅し」の近畿大助教授 罰金20万円を求刑 弁護側は無罪主張=奈良」
読売新聞2006年10月5日「道で母子に「誘拐するぞ」、脅迫罪起訴 近大助教授に無罪/奈良地裁」
朝日新聞2006年10月5日「声かけで「脅迫」の近大助教授に無罪 奈良地裁」
朝日新聞2006年10月5日「「うっかり子どもに注意できない」 声かけ「脅迫」無罪」
朝日新聞2006年10月17日「声かけの大学助教授、無罪確定へ 奈良地検 控訴せず」
読売新聞2006年11月7日「無罪確定のX近大助教授、復職へ/奈良」