2007年5月9日深夜、ステーキ専門飲食店チェーン「ペッパーランチ」大阪心斎橋店の店長と店員が、食事中の女性客を拉致監禁の上に強姦するという前代未聞の衝撃的な事件が発生した。その凶悪極まる犯行は、店長に対して求刑を上回る実刑判決が下されるほどであった。
【深夜のレストランで】
2007年5月9日午前0時20分頃、閉店間際のペッパーランチ大阪心斎橋店に、20代の女性客1人が訪れた。女性が食事を始めると、同店店長の北山 大輔(当時25歳)と店員の三宅 正信(25歳)は閉店作業を装って店のシャッターを閉め始めた。そうして逃げ道を無くすと、女性客にスタンガンを突きつけて「騒ぐと殺すぞ」と脅して睡眠薬を飲ませ、現金5万5000円入りのサイフを奪った。
さらに、睡眠薬を飲んで意識を失った被害者を三宅が借りている泉佐野市内のガレージまで運び、そこで強姦した。男たちはその後も被害者を監禁し続ける(北山曰く「飼っておく」)つもりで車のシートに手足を縛りつけた。また、通報やGPS機能による捜索をおそれて、被害者のケータイを水没させた上でへし折って破壊している。
5月9日午前9時過ぎ、男たちは店舗に出勤するためガレージを離れた。このとき、被害者の足の拘束がキツすぎると思った北山は、その拘束を少し緩めて出ていった。
午前9時30分頃、被害者が救出される。被害者がガレージ内から助けを求めていたところ、近所のハンカチ工場に務める女性が通りがかり、ガレージを内側から開ける方法を被害者に伝えたのだった。ガレージが開くと全裸のままの被害者が飛び出してきたという。
通報を受けた警察は、何事も無かったかのように店舗で勤務を続けていた男2人を任意同行して逮捕した。5月30日に捜査を終えて強盗強姦・逮捕監禁致傷罪で起訴。
【男たちの犯罪計画】
犯人の北山と三宅は中学時代の同級生。北山はペッパーフードサービス(以下、PFS表記)の社員だったが事件時には独立しており、業務委託契約で心斎橋店の店長を務めていた。三宅は北山に誘われて同店で働き出した。ランチタイムなどには他のアルバイトもいたものの、ほとんどは2人だけで店を回していたという。
用意周到で計画的な犯行だったことから、インターネット上では2人が本事件以前より同様の行為を繰り返していたのではと疑う声も多かったが、捜査では他の被害者はいないとされている。2人は4月初め頃から女性を襲うことを計画し始め、当初は車を運転しながら路上を一人歩きしている女性を狙っていたが難しかっため、深夜に店舗を訪れた客を襲うことを思いついたという。スタンガンや睡眠薬などはインターネットで入手した。そうして2人は4月下旬から深夜の店舗で「獲物」を待ち続けていたのだった…。
因みに公判で明らかにされたところによると、北山は妊娠中の婚約者がおり、三宅も同棲している女性がいたとのこと。
【裁判と判決】
2007年7月27日、大阪地裁で初公判。被害者も自ら強く希望して傍聴することが認められ、その姿が見られないようについたてを立てるなどして最大限の配慮がなされた。
2007年8月8日、大阪地裁で論告求刑公判。検察は「犯行の約2週間前にスタンガンを準備するなど計画的で悪質。女性は事件後に休職を余儀なくされるなど被害は深刻」と指摘し、「性欲を満たすための自己中心的な動機に酌量の余地はなく、女性の人格を顧みない非情な犯行」として北山・三宅共に懲役10年を求刑した。
2007年9月26日、大阪地裁判決。主犯格とされた店長の北山に求刑を上回る懲役12年、店員の三宅には求刑どおりに懲役10年の判決が下された。刑事裁判において判決が求刑を上回るのは異例。
この点について、2004年の刑法改正により単独犯よりもより悪質と見做される「集団強姦罪」が新たに規定されたところ、本事件で適用される強盗強姦罪には単独犯か集団かの区別は無いが、具体的な量刑を検討する上では当然考慮に入れるべき要素であると説明された。杉田宗久裁判長は「悪質さは同種事件の中で一際抜きん出ている。求刑は軽きに過ぎると言わざるを得ない」と断罪した。北山が控訴。
2008年2月28日、大阪高裁判決。一審の刑が重すぎるとした北山による控訴を棄却。若原正樹裁判長は「前代未聞の極めて悪質な犯行を主導しており、一審判決の量刑はやむを得ない」とした。
【会社の対応】
PFSが事件を把握したのは5月12日とされるが、それからしばらくは沈黙を続けていた。後に説明したところによれば、捜査がまだ続いており、警察からも要請されていたという。しかし16日昼過ぎに一部の新聞社がスクープを出したことにより、同日夜に記者会見を開かざるを得なくなる。
スクープ及び記者会見翌日、5月17日の同社株価は一時ストップ安を記録するほど下落した。CMの放送は取りやめられ、コンビニと提携した新商品の企画も中止になった。
2007年7月12日、PFSは業績見通しを大きく下方修正した。そこでは本事件を受けての再発防止策として採用・教育関連に多額の費用を計上したことが説明されている。
判決確定後の2009年、PFSは本事件で業務に著しい影響を受けたとして、北山・三宅と連帯保証人1名に対して、店舗閉店に伴う違約金や原状回復費など計約2760万円を求める損害賠償請求を起こしたと報道された。
【強盗強姦罪とは】
2017年7月より、性犯罪を厳罰化する改正刑法が施行された。刑法177条の強姦罪は強制性交罪へと改められた。これは被害者の性別を問わなくするためのものである。同様にして、刑法241条に規定する強盗強姦罪は強盗・強制性交等罪と改められている。被害者の性別が問われなくなったのは177条に同じだが、本条の適用される条件についても改められている。
改正前は、本事件のように強盗した者が→強姦したときに本条が適用され、強姦した者が→強盗したときには適用されなかった。すなわち、本条が適用された場合は「無期又は7年以上の懲役」、適用されない場合は強盗罪と強姦罪の併合により「5年以上30年以下の懲役」となり、科すことのできる刑に大きな差があった。改正法はその不合理を是正するもので、強盗・強姦の前後関係を問わなくなっている。
条文は以下のとおり。
刑法241条 強盗の罪若しくはその未遂罪を犯した者が強制性交等の罪若しくはその未遂罪をも犯したとき、又は強制性交等の罪若しくはその未遂罪を犯した者が強盗の罪若しくはその未遂罪をも犯したときは、無期又は七年以上の懲役に処する。
【参考サイト】
判決が指摘するとおり前代未聞の悪質な事件だが、「その割には報道が少ない」、「明らかにされていない疑惑が多々ある」などとしてインターネット上で大きな議論を呼んだ。現在は削除されているが、事件をまとめるwikiも作成されたほどだ。ただ、陰謀論が加熱し過ぎている感も否めない。
本ブログでは不確定情報には立ち入らない。一方で、2ちゃんねらー有志による比較的客観的な裁判傍聴記もあり、そちらの情報を一部参照させて頂いた。
ペッパーランチ心斎橋店 女性客拉致監禁強姦強盗事件 まとめ(Internet archiveによる記録)
https://web.archive.org/web/20100420014531/http://www22.atwiki.jp/pepper_rape/
市民参加型ニュースサイト「オーマイニュース」の記事(同じくInternet archiveによる記録)
色々な問題を抱えて短期で閉鎖されたサイトだが、本事件に関しては丁寧にまとめられている。
2007年7月27日「ペッパーランチ事件、起訴事実認める」
https://web.archive.org/web/20080629072842/http://www.ohmynews.co.jp/news/20070727/13559
2007年8月2日「ペッパーランチ事件、「何も考えていなかった」」
https://web.archive.org/web/20080629072848/http://www.ohmynews.co.jp/news/20070802/13710
2007年9月26日「求刑上回る懲役12年、「前代未聞」と裁判長」
https://web.archive.org/web/20080629072853/http://www.ohmynews.co.jp/news/20070926/15477
【深夜のレストランで】
2007年5月9日午前0時20分頃、閉店間際のペッパーランチ大阪心斎橋店に、20代の女性客1人が訪れた。女性が食事を始めると、同店店長の北山 大輔(当時25歳)と店員の三宅 正信(25歳)は閉店作業を装って店のシャッターを閉め始めた。そうして逃げ道を無くすと、女性客にスタンガンを突きつけて「騒ぐと殺すぞ」と脅して睡眠薬を飲ませ、現金5万5000円入りのサイフを奪った。
さらに、睡眠薬を飲んで意識を失った被害者を三宅が借りている泉佐野市内のガレージまで運び、そこで強姦した。男たちはその後も被害者を監禁し続ける(北山曰く「飼っておく」)つもりで車のシートに手足を縛りつけた。また、通報やGPS機能による捜索をおそれて、被害者のケータイを水没させた上でへし折って破壊している。
5月9日午前9時過ぎ、男たちは店舗に出勤するためガレージを離れた。このとき、被害者の足の拘束がキツすぎると思った北山は、その拘束を少し緩めて出ていった。
午前9時30分頃、被害者が救出される。被害者がガレージ内から助けを求めていたところ、近所のハンカチ工場に務める女性が通りがかり、ガレージを内側から開ける方法を被害者に伝えたのだった。ガレージが開くと全裸のままの被害者が飛び出してきたという。
通報を受けた警察は、何事も無かったかのように店舗で勤務を続けていた男2人を任意同行して逮捕した。5月30日に捜査を終えて強盗強姦・逮捕監禁致傷罪で起訴。
【男たちの犯罪計画】
犯人の北山と三宅は中学時代の同級生。北山はペッパーフードサービス(以下、PFS表記)の社員だったが事件時には独立しており、業務委託契約で心斎橋店の店長を務めていた。三宅は北山に誘われて同店で働き出した。ランチタイムなどには他のアルバイトもいたものの、ほとんどは2人だけで店を回していたという。
用意周到で計画的な犯行だったことから、インターネット上では2人が本事件以前より同様の行為を繰り返していたのではと疑う声も多かったが、捜査では他の被害者はいないとされている。2人は4月初め頃から女性を襲うことを計画し始め、当初は車を運転しながら路上を一人歩きしている女性を狙っていたが難しかっため、深夜に店舗を訪れた客を襲うことを思いついたという。スタンガンや睡眠薬などはインターネットで入手した。そうして2人は4月下旬から深夜の店舗で「獲物」を待ち続けていたのだった…。
因みに公判で明らかにされたところによると、北山は妊娠中の婚約者がおり、三宅も同棲している女性がいたとのこと。
【裁判と判決】
2007年7月27日、大阪地裁で初公判。被害者も自ら強く希望して傍聴することが認められ、その姿が見られないようについたてを立てるなどして最大限の配慮がなされた。
2007年8月8日、大阪地裁で論告求刑公判。検察は「犯行の約2週間前にスタンガンを準備するなど計画的で悪質。女性は事件後に休職を余儀なくされるなど被害は深刻」と指摘し、「性欲を満たすための自己中心的な動機に酌量の余地はなく、女性の人格を顧みない非情な犯行」として北山・三宅共に懲役10年を求刑した。
2007年9月26日、大阪地裁判決。主犯格とされた店長の北山に求刑を上回る懲役12年、店員の三宅には求刑どおりに懲役10年の判決が下された。刑事裁判において判決が求刑を上回るのは異例。
この点について、2004年の刑法改正により単独犯よりもより悪質と見做される「集団強姦罪」が新たに規定されたところ、本事件で適用される強盗強姦罪には単独犯か集団かの区別は無いが、具体的な量刑を検討する上では当然考慮に入れるべき要素であると説明された。杉田宗久裁判長は「悪質さは同種事件の中で一際抜きん出ている。求刑は軽きに過ぎると言わざるを得ない」と断罪した。北山が控訴。
2008年2月28日、大阪高裁判決。一審の刑が重すぎるとした北山による控訴を棄却。若原正樹裁判長は「前代未聞の極めて悪質な犯行を主導しており、一審判決の量刑はやむを得ない」とした。
【会社の対応】
PFSが事件を把握したのは5月12日とされるが、それからしばらくは沈黙を続けていた。後に説明したところによれば、捜査がまだ続いており、警察からも要請されていたという。しかし16日昼過ぎに一部の新聞社がスクープを出したことにより、同日夜に記者会見を開かざるを得なくなる。
スクープ及び記者会見翌日、5月17日の同社株価は一時ストップ安を記録するほど下落した。CMの放送は取りやめられ、コンビニと提携した新商品の企画も中止になった。
2007年7月12日、PFSは業績見通しを大きく下方修正した。そこでは本事件を受けての再発防止策として採用・教育関連に多額の費用を計上したことが説明されている。
判決確定後の2009年、PFSは本事件で業務に著しい影響を受けたとして、北山・三宅と連帯保証人1名に対して、店舗閉店に伴う違約金や原状回復費など計約2760万円を求める損害賠償請求を起こしたと報道された。
【強盗強姦罪とは】
2017年7月より、性犯罪を厳罰化する改正刑法が施行された。刑法177条の強姦罪は強制性交罪へと改められた。これは被害者の性別を問わなくするためのものである。同様にして、刑法241条に規定する強盗強姦罪は強盗・強制性交等罪と改められている。被害者の性別が問われなくなったのは177条に同じだが、本条の適用される条件についても改められている。
改正前は、本事件のように強盗した者が→強姦したときに本条が適用され、強姦した者が→強盗したときには適用されなかった。すなわち、本条が適用された場合は「無期又は7年以上の懲役」、適用されない場合は強盗罪と強姦罪の併合により「5年以上30年以下の懲役」となり、科すことのできる刑に大きな差があった。改正法はその不合理を是正するもので、強盗・強姦の前後関係を問わなくなっている。
条文は以下のとおり。
刑法241条 強盗の罪若しくはその未遂罪を犯した者が強制性交等の罪若しくはその未遂罪をも犯したとき、又は強制性交等の罪若しくはその未遂罪を犯した者が強盗の罪若しくはその未遂罪をも犯したときは、無期又は七年以上の懲役に処する。
【参考サイト】
判決が指摘するとおり前代未聞の悪質な事件だが、「その割には報道が少ない」、「明らかにされていない疑惑が多々ある」などとしてインターネット上で大きな議論を呼んだ。現在は削除されているが、事件をまとめるwikiも作成されたほどだ。ただ、陰謀論が加熱し過ぎている感も否めない。
本ブログでは不確定情報には立ち入らない。一方で、2ちゃんねらー有志による比較的客観的な裁判傍聴記もあり、そちらの情報を一部参照させて頂いた。
ペッパーランチ心斎橋店 女性客拉致監禁強姦強盗事件 まとめ(Internet archiveによる記録)
https://web.archive.org/web/20100420014531/http://www22.atwiki.jp/pepper_rape/
市民参加型ニュースサイト「オーマイニュース」の記事(同じくInternet archiveによる記録)
色々な問題を抱えて短期で閉鎖されたサイトだが、本事件に関しては丁寧にまとめられている。
2007年7月27日「ペッパーランチ事件、起訴事実認める」
https://web.archive.org/web/20080629072842/http://www.ohmynews.co.jp/news/20070727/13559
2007年8月2日「ペッパーランチ事件、「何も考えていなかった」」
https://web.archive.org/web/20080629072848/http://www.ohmynews.co.jp/news/20070802/13710
2007年9月26日「求刑上回る懲役12年、「前代未聞」と裁判長」
https://web.archive.org/web/20080629072853/http://www.ohmynews.co.jp/news/20070926/15477