1979年5月23日、京都府長岡京市内にあるスーパーマーケットでパートをしていた主婦2人が、仕事を終えた後に近くの山林にワラビ採りに行って消息不明となる。2日後、山林の山頂付近で2人の遺体を発見。しかし2人を殺害した犯人を特定することはできないまま、1994年に公訴時効を迎えた。
2人が異常な程残忍に殺害されていたことや、被害者のうち1人がダイイングメッセージを残したことから、日本の未解決殺人事件では比較的よく知られている。
【ワラビ採りに出かけて…】
被害者である主婦2人、Aさん（32歳）とBさん（43歳）は5月23日朝6時～10時までのスーパーでのパート勤務（開店前の品出しの仕事だったとのこと）を終えると、自転車に乗って長岡京市奥海印寺の山林、地元の通称「野山」にワラビ採りに出かけてそのまま行方不明になった。
Aさんは同日15時半に保育所へ子どもを迎えにいくはずだったのに現れなかった。2人それぞれの夫が捜索するも見つからず、24日の昼過ぎより警察が捜索を開始。そして5月25日午前10時30分頃、山頂付近で何者かによって殺害された2人の遺体を発見。遺体は極めて凄惨な状態であった。
【2人の遺体】
まず、Aさんについて。Aさんの遺体は、左胸に包丁が突き刺さったままで、傷は肋骨を切断して心臓から肺にまで達していた。死因は失血死。他にも、全身を殴られたり蹴られたりした跡があった。さらに、下半身の下着が切り裂かれて、ジーパンや靴が脱ぎ捨てられていた。性的暴行を受けた可能性もあるが、体液は検出されていないという。ただし、犯人のものと思われる体毛を検出している。
次に、Bさんについて。左右の肋骨9本が折られ、肝臓が破裂した状態。Aさんと同様に全身を殴打されていた。死因は首を絞められたことによる窒息死。Aさんとは異なりジーパンはちゃんと履いていたが、陰部からは犯人のものと思われる体液が検出された。つまり、性的暴行を受けた可能性が高い。
そしてBさんのジーパンのポケットからは「オワレている たすけて下さい この男の人わるい人」と鉛筆で走り書きされたしわくちゃのレシートが見つかった。レシートは5月21日付けで、2人がパート勤務するスーパーのもの。筆跡鑑定が行われ、Bさん自身が書き残したと断定されている。その後の捜査により、付近で鉛筆の芯は見つかったものの、鉛筆自体は見つからず。
2人の死亡推定時刻は23日の12時～14時半頃。持ち込んだ弁当は空になっており、食べ終えた後で襲われている。現金や腕時計などは奪われていない。採ったワラビもそのまま。なお、2人が乗ってきた自転車は2台とも山林入口の畑に放置されていた。
Aさん又はBさんの遺体について、ネット上ではアキレス腱が切られていたとする記載が多く見受けられるが、筆者はこの点に関して未確認である。1982年に起こった新宿歌舞伎町女子中学生ナンパ殺傷事件では遺体のアキレス腱が切られており、こちらの事件と情報が混同されているのではないかと思われる。
【現場】
現場は地元の人が山菜採りなどでよく訪れる標高200メートル程度の山林。事件当日も多くの人が出入りしており、車も数台目撃されている。その一方で、奥に進むと木や竹などが生い茂っていて、見通しはあまりよくない。被害者2人もすぐには発見されず、警察犬を導入してようやく発見されたようだ。
【犯人像は】
犯人の遺留品はAさんの遺体に突き刺さったままの包丁のみ。指紋は検出されず。血液型はO型の可能性有りとのこと。
だが、単独犯か複数犯かがハッキリしていない。被害者が女性とはいえ、大人2人を単独で相手するのは決して容易でないはずだ。複数犯の線では、府警は近所の不良グループに目をつけていたようだが、進展は無かった。
一方で、Bさんがレシートに残したダイイングメッセージからは単独犯と読み取れなくもない。「この男の人」という書き方もそうだが、複数犯であれば文字を書いている余裕もなく襲われているはずだからだ。警察は、Bさんがレシートを手のひらで隠すようにしながら急いで書いた、と分析している。つまり、犯人は先にAさんを乱暴し、その間にBさんはAさんを残して逃げるようなことはできず、ひとまずレシートにこっそりとメモを残しておいた。その後Aさんが殺害され、Bさんも恐怖からかその場から逃げ出すことがでずにそのまま殺害されてしまった、という筋だ。
2人の全身が殴打されていたことから、犯人は格闘技の心得があるという推測もある。警察はこの線でも何人か不審者をリストアップしたものの、やはり決定的な人物は特定されなかった。
【近隣の事件】
本事件のおよそ半年前の1978年11月23日、15キロほど離れた宇治市において、ランニング中の38歳主婦が行方不明になっている。現場付近には約200メートルにわたって点々と血痕が残っており、主婦はかなり深い傷を負っている可能性が高いが、遺体等は見つからず。スリップ痕などはないため交通事故の可能性は低いとされる。殺人・遺体遺棄事件として捜査されるも進展無し。
また、1984年5月15日午後14時50分頃、本事件と同じ長岡京市で、48歳主婦Kさんが首や背中をめった刺しにされ、衣類や布団を被せられた上で放火されるという凄惨な事件があった。現場の痕跡から、犯人は負傷しており、血液型はO型ということまで特定されている。しかしその後の進展は無く、この事件は1999年5月に時効を迎えたことが報道されている。
以上の2事件について、本事件との関連を指摘する声がある。真相は不明だが、ごく狭い範囲で、年齢も近い主婦ばかりが標的となり、そしていずれの事件も未解決ということは事実だ。
【出典】
京都新聞1978年11月24日「マラソン主婦不明 自宅近くに血こん 襲われ連れ去りか 宇治」
京都新聞1978年11月25日「"死体なき殺人"で捜査 ランニング主婦不明事件 血こん、本人と一致」
京都新聞1978年11月26日「宇治の女性不明 田んぼを150メートル引きずる」
京都新聞1979年5月25日「主婦2人 2晩帰らず 山へワラビ採りに 自転車発見 捜索は空振り」
京都新聞1975年5月25日「長岡京の不明主婦 2人とも殺されていた 山中で遺体発見 リュックなど散乱 胸に文化包丁」
読売新聞1979年5月25日「主婦2人殺される 京都 ワラビ採りの山で」
京都新聞1979年5月26日「不審者を洗い出しへ 長岡京2主婦殺害事件 乱暴目的の犯行か」
毎日新聞1979年5月26日「犯罪 殺人：京都でワラビ採りの主婦2人殺される」
朝日新聞1979年5月26日「ワラビ採りの二主婦殺さる 京都・長岡京殺人」
京都新聞1979年5月28日「「たすけて」ポケットにメモ 長岡京2主婦殺害事件 単独犯の可能性」
京都新聞1979年5月29日「エンピツ捜しに全力 長岡京2主婦殺害事件 足取り解明へ"詰め"」
京都新聞1979年5月30日「長岡京2主婦殺害 鉛筆のシンを発見」
京都新聞1979年5月31日「重要参考人に若い男2人 長岡京2主婦殺害 一両日にも取り調べ 1人は空手の心得 不良仲間」
京都新聞1979年6月7日「不審者次々に"シロ" 長岡京の2主婦殺害 捜査半月、振り出しに」
京都新聞1979年6月14日「3週間…進まぬ捜査 長岡京2主婦殺し 変質者捜しに全力 特定できぬ逃走の経路」
京都新聞1979年6月23日「長岡京2主婦殺し1か月 絞りきれぬ犯人像」
京都新聞1979年8月10日「有力参考人の似顔絵公開 長岡京の主婦殺し 事件6日前、現場に」
京都新聞1979年8月23日「長岡京市の2主婦殺害事件 以前にも不審者 手配の似顔絵男と酷似」
京都新聞1984年5月16日「主婦を殺し、放火 長岡京 犯人、証拠隠し図り逃走」
京都新聞1984年5月16日「長岡京の主婦殺人放火 顔見知りの犯行か 直前「言い争う声」」
京都新聞1984年5月17日「長岡京主婦殺人放火 凶行時、犯人も負傷？ 26センチの足跡数個」
京都新聞1984年5月18日「長岡京の主婦殺人放火 なぜ、家中に血痕 ナゾ深まるばかり」
京都新聞1984年5月20日「長岡京の主婦殺人放火 盗難被害はなし 顔見知り？靴脱ぎ犯行」
京都新聞1984年5月22日「長岡京の主婦殺し 手に傷のある男追え 顔見知りの線濃厚 着替えの服物色か」
京都新聞1984年5月22日「長岡京の主婦殺し 犯人、右手に深い傷 病院重点に聞き込み」
朝日新聞1993年5月23日「ワラビ採りの主婦2人殺人、時効まで1年 犯人逮捕へ執念／京都」
朝日新聞1994年5月21日「23日に時効 ワラビ採りの主婦殺人事件【大阪】」
毎日新聞1994年5月23日「ワラビ採り主婦殺人事件が時効-京都・長岡京」
朝日新聞1999年4月14日「容疑者不詳で時効前に送検 京都・長岡京の殺人放火事件【大阪】」
2人が異常な程残忍に殺害されていたことや、被害者のうち1人がダイイングメッセージを残したことから、日本の未解決殺人事件では比較的よく知られている。
【ワラビ採りに出かけて…】
被害者である主婦2人、Aさん（32歳）とBさん（43歳）は5月23日朝6時～10時までのスーパーでのパート勤務（開店前の品出しの仕事だったとのこと）を終えると、自転車に乗って長岡京市奥海印寺の山林、地元の通称「野山」にワラビ採りに出かけてそのまま行方不明になった。
Aさんは同日15時半に保育所へ子どもを迎えにいくはずだったのに現れなかった。2人それぞれの夫が捜索するも見つからず、24日の昼過ぎより警察が捜索を開始。そして5月25日午前10時30分頃、山頂付近で何者かによって殺害された2人の遺体を発見。遺体は極めて凄惨な状態であった。
【2人の遺体】
まず、Aさんについて。Aさんの遺体は、左胸に包丁が突き刺さったままで、傷は肋骨を切断して心臓から肺にまで達していた。死因は失血死。他にも、全身を殴られたり蹴られたりした跡があった。さらに、下半身の下着が切り裂かれて、ジーパンや靴が脱ぎ捨てられていた。性的暴行を受けた可能性もあるが、体液は検出されていないという。ただし、犯人のものと思われる体毛を検出している。
次に、Bさんについて。左右の肋骨9本が折られ、肝臓が破裂した状態。Aさんと同様に全身を殴打されていた。死因は首を絞められたことによる窒息死。Aさんとは異なりジーパンはちゃんと履いていたが、陰部からは犯人のものと思われる体液が検出された。つまり、性的暴行を受けた可能性が高い。
そしてBさんのジーパンのポケットからは「オワレている たすけて下さい この男の人わるい人」と鉛筆で走り書きされたしわくちゃのレシートが見つかった。レシートは5月21日付けで、2人がパート勤務するスーパーのもの。筆跡鑑定が行われ、Bさん自身が書き残したと断定されている。その後の捜査により、付近で鉛筆の芯は見つかったものの、鉛筆自体は見つからず。
2人の死亡推定時刻は23日の12時～14時半頃。持ち込んだ弁当は空になっており、食べ終えた後で襲われている。現金や腕時計などは奪われていない。採ったワラビもそのまま。なお、2人が乗ってきた自転車は2台とも山林入口の畑に放置されていた。
Aさん又はBさんの遺体について、ネット上ではアキレス腱が切られていたとする記載が多く見受けられるが、筆者はこの点に関して未確認である。1982年に起こった新宿歌舞伎町女子中学生ナンパ殺傷事件では遺体のアキレス腱が切られており、こちらの事件と情報が混同されているのではないかと思われる。
【現場】
現場は地元の人が山菜採りなどでよく訪れる標高200メートル程度の山林。事件当日も多くの人が出入りしており、車も数台目撃されている。その一方で、奥に進むと木や竹などが生い茂っていて、見通しはあまりよくない。被害者2人もすぐには発見されず、警察犬を導入してようやく発見されたようだ。
【犯人像は】
犯人の遺留品はAさんの遺体に突き刺さったままの包丁のみ。指紋は検出されず。血液型はO型の可能性有りとのこと。
だが、単独犯か複数犯かがハッキリしていない。被害者が女性とはいえ、大人2人を単独で相手するのは決して容易でないはずだ。複数犯の線では、府警は近所の不良グループに目をつけていたようだが、進展は無かった。
一方で、Bさんがレシートに残したダイイングメッセージからは単独犯と読み取れなくもない。「この男の人」という書き方もそうだが、複数犯であれば文字を書いている余裕もなく襲われているはずだからだ。警察は、Bさんがレシートを手のひらで隠すようにしながら急いで書いた、と分析している。つまり、犯人は先にAさんを乱暴し、その間にBさんはAさんを残して逃げるようなことはできず、ひとまずレシートにこっそりとメモを残しておいた。その後Aさんが殺害され、Bさんも恐怖からかその場から逃げ出すことがでずにそのまま殺害されてしまった、という筋だ。
2人の全身が殴打されていたことから、犯人は格闘技の心得があるという推測もある。警察はこの線でも何人か不審者をリストアップしたものの、やはり決定的な人物は特定されなかった。
【近隣の事件】
本事件のおよそ半年前の1978年11月23日、15キロほど離れた宇治市において、ランニング中の38歳主婦が行方不明になっている。現場付近には約200メートルにわたって点々と血痕が残っており、主婦はかなり深い傷を負っている可能性が高いが、遺体等は見つからず。スリップ痕などはないため交通事故の可能性は低いとされる。殺人・遺体遺棄事件として捜査されるも進展無し。
また、1984年5月15日午後14時50分頃、本事件と同じ長岡京市で、48歳主婦Kさんが首や背中をめった刺しにされ、衣類や布団を被せられた上で放火されるという凄惨な事件があった。現場の痕跡から、犯人は負傷しており、血液型はO型ということまで特定されている。しかしその後の進展は無く、この事件は1999年5月に時効を迎えたことが報道されている。
以上の2事件について、本事件との関連を指摘する声がある。真相は不明だが、ごく狭い範囲で、年齢も近い主婦ばかりが標的となり、そしていずれの事件も未解決ということは事実だ。
【出典】
京都新聞1978年11月24日「マラソン主婦不明 自宅近くに血こん 襲われ連れ去りか 宇治」
京都新聞1978年11月25日「"死体なき殺人"で捜査 ランニング主婦不明事件 血こん、本人と一致」
京都新聞1978年11月26日「宇治の女性不明 田んぼを150メートル引きずる」
京都新聞1979年5月25日「主婦2人 2晩帰らず 山へワラビ採りに 自転車発見 捜索は空振り」
京都新聞1975年5月25日「長岡京の不明主婦 2人とも殺されていた 山中で遺体発見 リュックなど散乱 胸に文化包丁」
読売新聞1979年5月25日「主婦2人殺される 京都 ワラビ採りの山で」
京都新聞1979年5月26日「不審者を洗い出しへ 長岡京2主婦殺害事件 乱暴目的の犯行か」
毎日新聞1979年5月26日「犯罪 殺人：京都でワラビ採りの主婦2人殺される」
朝日新聞1979年5月26日「ワラビ採りの二主婦殺さる 京都・長岡京殺人」
京都新聞1979年5月28日「「たすけて」ポケットにメモ 長岡京2主婦殺害事件 単独犯の可能性」
京都新聞1979年5月29日「エンピツ捜しに全力 長岡京2主婦殺害事件 足取り解明へ"詰め"」
京都新聞1979年5月30日「長岡京2主婦殺害 鉛筆のシンを発見」
京都新聞1979年5月31日「重要参考人に若い男2人 長岡京2主婦殺害 一両日にも取り調べ 1人は空手の心得 不良仲間」
京都新聞1979年6月7日「不審者次々に"シロ" 長岡京の2主婦殺害 捜査半月、振り出しに」
京都新聞1979年6月14日「3週間…進まぬ捜査 長岡京2主婦殺し 変質者捜しに全力 特定できぬ逃走の経路」
京都新聞1979年6月23日「長岡京2主婦殺し1か月 絞りきれぬ犯人像」
京都新聞1979年8月10日「有力参考人の似顔絵公開 長岡京の主婦殺し 事件6日前、現場に」
京都新聞1979年8月23日「長岡京市の2主婦殺害事件 以前にも不審者 手配の似顔絵男と酷似」
京都新聞1984年5月16日「主婦を殺し、放火 長岡京 犯人、証拠隠し図り逃走」
京都新聞1984年5月16日「長岡京の主婦殺人放火 顔見知りの犯行か 直前「言い争う声」」
京都新聞1984年5月17日「長岡京主婦殺人放火 凶行時、犯人も負傷？ 26センチの足跡数個」
京都新聞1984年5月18日「長岡京の主婦殺人放火 なぜ、家中に血痕 ナゾ深まるばかり」
京都新聞1984年5月20日「長岡京の主婦殺人放火 盗難被害はなし 顔見知り？靴脱ぎ犯行」
京都新聞1984年5月22日「長岡京の主婦殺し 手に傷のある男追え 顔見知りの線濃厚 着替えの服物色か」
京都新聞1984年5月22日「長岡京の主婦殺し 犯人、右手に深い傷 病院重点に聞き込み」
朝日新聞1993年5月23日「ワラビ採りの主婦2人殺人、時効まで1年 犯人逮捕へ執念／京都」
朝日新聞1994年5月21日「23日に時効 ワラビ採りの主婦殺人事件【大阪】」
毎日新聞1994年5月23日「ワラビ採り主婦殺人事件が時効-京都・長岡京」
朝日新聞1999年4月14日「容疑者不詳で時効前に送検 京都・長岡京の殺人放火事件【大阪】」
