【明け方の交番を襲撃した大学生】
 2018年9月19日午前4時頃、宮城県仙台市宮城野区にある仙台東署東仙台交番に、「お金を拾った」と男子大学生X(当時21歳)が訪ねてきた。清野 裕彰巡査長(33歳)が応対していると、Xは全長約20センチの剣鉈を取り出して突然襲いかかった。

 2人が争う声を聞いた巡査部長(47歳)が駆けつけると、清野巡査長は血を流して倒れていた。Xも倒れていたが立ち上がり、次は巡査部長にも襲いかかろうとした。巡査部長は「刃物を捨てろ」と警告しつつ、1発発砲。Xがそれでも向かってきたため、さらに2発発砲した。

 清野巡査長とXは病院に運ばれたが、両者とも死亡を確認。清野巡査長は複数の刺し傷があったが、特に左脇下から心臓まで達する刺し傷が致命傷になった。交番勤務中の警官は鉄板入りの耐刃防護衣を身につけることが義務付られているが、巡査長はこの時身につけていなかったという。なお、交番内には他に2人の警官がいたが、事件発生時は仮眠中で難を逃れた。

 Xは発砲された3発全てが命中しており、そのうち2発は貫通し、残り1発は肺の近くに残った。発砲した巡査部長には怪我は無かった。巡査部長による3発の発砲について、県警は「巡査長が刺されており、発砲した巡査部長にも刃物を向けて襲いかかってきたため、適切な職務行為であったと考える」とコメントしている。

 清野巡査長は事件のあった9月19日付で二階級特進となり警部補となった。

【犯人】
 Xは、事件現場から約700~800メートルほど離れた住宅に家族4人で暮らしており、仙台市内にある東北学院大学に通っていた。家族関係も学内の交友関係もトラブルは報道されていない。

 事件時は剣鉈の他にもエアガン2丁と小型ナイフなどを持ち込むなど徹底的に「武装」していた。また、事件後には自宅から他のエアガンや、銃器関係の書籍が押収されている。警察官の持つ銃を狙った事件はしばしば起こるが、Xも同様の動機だったのだろうか。清野巡査長が応対した見張り室に防犯カメラは無く、Xがどのような経緯で巡査長に襲いかかったのかは不明のままである。

 2018年11月27日にXは清野巡査長への殺人と巡査部長への殺人未遂などの疑いで書類送検され、12月19日に仙台地検は被疑者死亡により不起訴処分とした。多くの謎を残したまま事件はクローズした。

【事件後】
 交番内に防犯カメラが無く本事件の捜査が難航したこともあり、宮城県警は2019年中に県内交番77か所と駐在所144か所全てに防犯カメラを設置。さらに交番内のレイアウトを見直したり、盾・刺股・催涙スプレーなどを配備した。人員配置も見直され、1人体制での勤務は改められた。交番のような狭い空間で暴れる相手を想定した逮捕訓練も行われている。

 事件があった日は清野巡査長の結婚記念日であった。最愛の妻との間に授かった双子の娘は事件当時まだ1歳半になったばかりだった。事件から1年後の2019年9月には、妻と父親が報道陣向けに手記を発表している。妻は「悲しい、寂しい、会いたい」、「ただただ夫を返してほしい」と悲痛な思いを率直に綴り、父親は「息子は犯人からその身を挺して地域住民を守った」、「せめて再発防止を、私たちと同じ思いをする人たちがいなくなることを望みます」と記した。Xの両親からの謝罪等は未だに無いという。

【出典】
 河北新報2018年9月19日「東仙台交番で巡査長刺され死亡 男が交番襲う、別の警官発砲し男も死亡
 朝日新聞2018年9月19日「警官刺殺の容疑者は21歳大学生 現場近くに居住」
 産経新聞2018年9月19日「宮城の交番で警官刺され死亡、容疑者も発砲され死亡」
 産経新聞2018年9月19日「【仙台警官刺殺】容疑者は仙台市の21歳大学生」
 毎日新聞2018年9月19日「仙台 交番で警官刺され死亡 襲撃の男、別の警官が射殺
 毎日新聞2018年9月19日「仙台・警官刺殺 耐刃防護服の常時着用を 警察庁が通達
 毎日新聞2018年9月19日「仙台・警官刺殺 容疑の男、刃物と機関銃様のもの所持
 毎日新聞2018年9月19日「仙台・警官刺殺 刃渡りは20cm 「現金拾った」と訪問
 毎日新聞2018年9月20日「仙台・警官刺殺 交番、凶行また 殺害事件、今年3件目
 毎日新聞2018年9月20日「仙台警官刺殺 容疑者、エアガンで顔銃撃 拳銃奪う目的か
 朝日新聞2018年9月20日「血まみれの床、容疑者は包丁を手に警告無視 警官刺殺」
 朝日新聞2018年9月20日「不意に襲撃受けたか 死亡の警官、拳銃は収納されたまま」
 河北新報2018年9月20日「<仙台・警官刺殺>住宅街未明の凶行 容疑者、物静かな性格と結び付かず「なぜ」
 日本経済新聞2018年9月20日「大学生、バッグも所持 交番襲撃、凶器隠したか」
 河北新報2018年9月26日「<仙台・警官刺殺>発生1週間 容疑者死亡、動機解明に壁 捜査幹部「長期戦を覚悟」
 産経新聞2018年10月4日「【衝撃事件の核心】仙台交番刺殺事件 心優しき巡査長をなぜ 容疑の大学生は死亡、動機は…」
 河北新報2018年11月2日「<仙台・警官刺殺>東仙台交番が1ヵ月半ぶり業務再開 レイアウト変更など防犯・態勢を強化
 産経新聞2018年11月27日「仙台の交番襲撃、被疑者死亡のまま元大学生を書類送検」
 河北新報2018年11月28日「<仙台・警官刺殺>捜査が実質的に幕 犯行動機、最後まで判明しないまま
 産経新聞2018年12月19日「仙台交番襲撃、元大学生を不起訴 地検「事実関係は認定も、死亡のため」」
 産経新聞2019年9月18日「仙台交番襲撃事件、19日で発生から1年 模索続く交番の安全対策」
 朝日新聞2019年9月19日「結婚記念日に刺殺された夫「きっといいパパ…帰って」」
 河北新報2019年9月19日「宮城県警、東仙台交番襲撃事件など受け駐在所の勤務見直し 防刃防護服の改良検討も