2009年12月11日、静岡県浜松市東区のマンションにおいて、男性X(当時69歳)が内縁の妻K(当時43歳)に刺殺される事件が起こった。
12月14日、殺人の容疑でKを逮捕。Kは自分が刺したことを認めた上で、Xは認知症になっており、ナイフで襲いかかってきたところ揉み合いになって刺してしまったと証言した。
【公判】
2011年1月20日、静岡地裁浜松支部で初公判。検察側の冒頭陳述では「ナイフを持ったXに馬乗りされた被告Kが、ナイフを取り上げてXに致命傷を含め刺し傷など約85か所に傷を負わせた」と指摘して強固な殺意があったことを強調。「ナイフを取り上げられた後のXに攻撃の可能性は無かった」とも述べ、懲役13年を求刑。
これに対して弁護側は「馬乗りされた被告は命に危険が差し迫っていた。暗がりで必死に抵抗し、手元にあった硬いものがナイフだった」と訴え、正当防衛による無罪を主張した。
【正当防衛とは】
刑法第36条では正当防衛について以下のとおり規定している。
【地裁判決】
2011年2月2日、静岡地裁判決。無罪。Kによる正当防衛が認められた。裁判員裁判で全面無罪は5例目で、殺人事件での無罪判決は2例目。正当防衛が認められるのは初。
判決では、Xが医師からクロイツフェルト・ヤコブ病の疑いがあると診断されており、病気による妄想から不自然な言動をするようになっていたと認定した。その上で「就寝中にXが馬乗りになりナイフで襲ってきたため、命の危険を感じたのは当然」、「被告がナイフを振り回して攻撃を排除しようとしたのは身を守るため妥当で許される範囲」とした。
検察側は「被告は被害者が身動きできなくなった後も攻撃した」などと主張したが、判決では「攻撃を段階分けするような主張は採用できず、被告にとって生命や身体の危険が差し迫った状況は終始継続していた」と退けた。
なお、判決では「途中からナイフを握っていると分かった上で胸などを力強い力で刺しており、死亡する危険性が高いことは認識していた」と被告の殺意を認定している。ただし「殺意は認められるが積極的なものではなく、被告が精一杯反撃しなければ被告自身が被害者になる可能性があった」として正当防衛を認めたものである。
【無罪確定】
2月16日に静岡地検浜松支部は控訴を断念することを発表。無罪確定。裁判員裁判の全面無罪判決が、検察側の控訴見送りによって確定するのは初。
裁判員を務めた男性は記者会見で「検察側の証拠に、断定できるものとできないものがあった。疑わしきは被告人の利益にと判断した」と述べている。
【補足】
クロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt-Jakob disease, CJD)は、脳に異常なプリオン淡白が沈着して脳神経細胞の機能が障害されるプリオン病の一種。発病から数ヶ月で痴呆や妄想が急速に進行する。プリオンの感染原因は不明で、治療法も確立されていない。年間100万人に1人程度発症するという。
【判決】
静岡地裁平成22年(わ)第1号
【出典】
朝日新聞2011年2月2日「殺人事件で裁判員無罪判決 静岡地裁支部「正当防衛」」
西日本新聞2011年2月2日「殺人罪の女性被告に無罪 裁判員裁判で5例目、浜松」
日本経済新聞2011年2月3日「裁判員、殺人被告に無罪 地裁浜松市部判決」
12月14日、殺人の容疑でKを逮捕。Kは自分が刺したことを認めた上で、Xは認知症になっており、ナイフで襲いかかってきたところ揉み合いになって刺してしまったと証言した。
【公判】
2011年1月20日、静岡地裁浜松支部で初公判。検察側の冒頭陳述では「ナイフを持ったXに馬乗りされた被告Kが、ナイフを取り上げてXに致命傷を含め刺し傷など約85か所に傷を負わせた」と指摘して強固な殺意があったことを強調。「ナイフを取り上げられた後のXに攻撃の可能性は無かった」とも述べ、懲役13年を求刑。
これに対して弁護側は「馬乗りされた被告は命に危険が差し迫っていた。暗がりで必死に抵抗し、手元にあった硬いものがナイフだった」と訴え、正当防衛による無罪を主張した。
【正当防衛とは】
刑法第36条では正当防衛について以下のとおり規定している。
急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
【地裁判決】
2011年2月2日、静岡地裁判決。無罪。Kによる正当防衛が認められた。裁判員裁判で全面無罪は5例目で、殺人事件での無罪判決は2例目。正当防衛が認められるのは初。
判決では、Xが医師からクロイツフェルト・ヤコブ病の疑いがあると診断されており、病気による妄想から不自然な言動をするようになっていたと認定した。その上で「就寝中にXが馬乗りになりナイフで襲ってきたため、命の危険を感じたのは当然」、「被告がナイフを振り回して攻撃を排除しようとしたのは身を守るため妥当で許される範囲」とした。
検察側は「被告は被害者が身動きできなくなった後も攻撃した」などと主張したが、判決では「攻撃を段階分けするような主張は採用できず、被告にとって生命や身体の危険が差し迫った状況は終始継続していた」と退けた。
なお、判決では「途中からナイフを握っていると分かった上で胸などを力強い力で刺しており、死亡する危険性が高いことは認識していた」と被告の殺意を認定している。ただし「殺意は認められるが積極的なものではなく、被告が精一杯反撃しなければ被告自身が被害者になる可能性があった」として正当防衛を認めたものである。
【無罪確定】
2月16日に静岡地検浜松支部は控訴を断念することを発表。無罪確定。裁判員裁判の全面無罪判決が、検察側の控訴見送りによって確定するのは初。
裁判員を務めた男性は記者会見で「検察側の証拠に、断定できるものとできないものがあった。疑わしきは被告人の利益にと判断した」と述べている。
【補足】
クロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt-Jakob disease, CJD)は、脳に異常なプリオン淡白が沈着して脳神経細胞の機能が障害されるプリオン病の一種。発病から数ヶ月で痴呆や妄想が急速に進行する。プリオンの感染原因は不明で、治療法も確立されていない。年間100万人に1人程度発症するという。
【判決】
静岡地裁平成22年(わ)第1号
【出典】
朝日新聞2011年2月2日「殺人事件で裁判員無罪判決 静岡地裁支部「正当防衛」」
西日本新聞2011年2月2日「殺人罪の女性被告に無罪 裁判員裁判で5例目、浜松」
日本経済新聞2011年2月3日「裁判員、殺人被告に無罪 地裁浜松市部判決」