【ニュータイプなニセ札】
 1993年4月、JR京都駅の券売機で2枚の偽造一万円札が発見された。 外観は真券(本物の札)に近づけられてはいたが、透かしが曖昧で、紙も真券には使われていない蛍光染料が使われているなど、一見クオリティの高いものではなかった。

 しかし本件ニセ札は、券売機や両替機などの識別装置をパスできるように磁気インクが使用されていることが判明した。つまり人ではなく機械を騙すことを狙った設計である。このようなタイプのニセ札事件は日本では初めてであった。

 同ニセ札は駅の券売機や銀行の両替機で使用されており、4月25日までに大阪・京都・奈良・滋賀の4府県23箇所、計506枚を発見。実際に使用が確認されたニセ札の枚数としては史上最多とも言われる。

【犯人は】 
 警察は銀行の防犯カメラに映ったニセ札使用犯を公開した。また、この手のニセ札製造に必要な印刷機は高額で、技術的にも高度なため、印刷工場を中心に捜査が行われた。

 だが、捜査は難航し、2003年4月に公訴時効が成立。刑法148条1項の通貨偽造罪や、148条2項の偽造通貨行使罪の公訴時効は当時10年であった。2010年の刑事訴訟法改正により、2020年現在は公訴時効は15年となっている。

【ニセ札のコードナンバーについて】
 ニセ札(偽造通貨)に関しては、偽造通貨取扱規則第4条により、対象となった札の種類に応じて符号が付けられることとなっている。符号は拾円札の「伊」から始まり、千円札が「チ」、一万円札は「和」となる。「D」はD券、すなわち1984年からの新しい図柄の札、一万円札であればそれまでの聖徳太子に代わって福沢諭吉が描かれた札を指す。

 因みに「和D-52」も有名で、和D-53号事件の前年1992年に見つかった、中国人グループによるニセ札である。

【対策】
 和D-53号事件を受け、早速93年秋には「肉眼で見えないマイクロ文字」や「紫外線に反応して発光する紫外線発光インク」が導入され、偽造防止対策がとられた。識別装置の方もセンサーがより高度となり、改良が続けられている。

 すぐに対策がとられたこともあってか、この手の「機械を騙す」タイプのニセ札事件はその後続かなかった。むしろ高性能の印刷機が安価で入手できるようになったこともあり、再び「人を騙す」タイプのニセ札事件が増えたという。

【参考サイト】
 以下は、日本パルプ工業/王子製紙に勤め、印刷用紙の製造や技術研究に携わった中嶋隆吉氏によるコラム。中嶋氏は事件当時大阪府警に頼まれて和D-53号の鑑定に関わったという。和D-53号と真券との差異について技術的に詳細な解説がされている。
 https://dtp-bbs.com/road-to-the-paper/column/column-026-3.html