2006年4月から5月にかけて、長野県諏訪市や茅野市などで、中学校の体育館や自動車修理工場にあった自動車などが連続して放火された。
7月、諏訪市に住む20歳女性を放火の容疑で逮捕。女性は火災現場に駆けつけて自身のブログでレポートするという「燃えアイドル」としてインターネット上で話題になっていたが、その火災は自らが火をつけたもの、つまり自作自演だったということが明らかになった。彼女の「くまぇり」というハンドルネームは、当時のインターネット・ユーザーにとってはあまりにも有名。
【燃える女】
くまぇりは2005年頃にブログを開設。くまぇりというハンドルネームは、当時人気のグラビア・アイドルである「熊田曜子」と自身の本名である「恵里香」を組み合わせたもの。自らの容姿を熊田曜子にソックリと称した。ブログには後の時代でいうところの「自撮り」を載せたりしていたものの、当時はブログを中心に活動するいわゆる「ネットアイドル」が大勢おり、その中でくまぇりが特別目立っていたわけではなかった。
2006年4月、くまぇりは近所で起こった火災の様子を写真とともにブログ記事にする。これが話題になると、くまぇりは次々と諏訪市周辺で起こった火災をレポートを始める。不謹慎ではないかという指摘もあったが、くまぇりは自分を「燃えアイドル」だと開き直った。撮影した火災の写真が地方紙に掲載されたこともあった。筆者も当時ネットをウォッチングしていたのだが、彼女の活動について「火事の恐ろしさを伝えてくれる」として擁護する者も多数いたと記憶している。くまぇり人気に火がついた。
しかしその後も短期間に近場での火災のレポートが続いたため、流石に怪しむ者が現れた。一連の火事は彼女自身が放火しているのではないかと。まさか放火はしていないだろうが、様々な場所で火災が発生しているにも関わらず毎回すぐに現場に駆けつけられるのは可怪しいと指摘した者もいた。彼女のブログはいよいよ炎上する。
【グラビア撮影と逮捕】
2006年7月8日、遂にくまぇりは逮捕された。5月26日未明に下諏訪町の自動車修理工場にあった乗用車に放火した容疑であった。その後の取り調べで、5月11日の諏訪西中学校体育館放火など8件についても放火を認めた。かつて地方紙に掲載された火事も、くまぇり自らが火を付けたものだった。なお、道路に置き石をした道交法違反の罪にも問われている。インターネット・ユーザーの不安は正しく的中していた。彼女の職業は「飲食店手伝い」と報道されたが、ネット・ユーザーは「火事手伝い」などと揶揄した。
一連の放火で死者が出なかったことは救いといえるかもしれないが、長年続けてきた家業を諦めることになった人もおり、生家を焼かれて思い出のアルバムなどを失った人もいた。損害額はおよそ1億1000万円にも及ぶという。
因みに、7月8日逮捕当日のくまぇりは週刊誌「SPA!」に掲載されるグラビアの撮影を行っていた。彼女のグラビア・デビューである。撮影された写真は彼女が逮捕されてもお蔵入りすることなくそのまま掲載されている。ただしグラビア・アイドルではなく放火の容疑者としての扱いで。見出しは「逮捕を目前にしてあえて撮影に挑んだくまぇりの表情」と付けられた。
当日の朝、くまぇりが撮影のために家を出ようとすると既に警察が待ち構えていたが、彼女は任意同行を拒否し、警察官を連れたままグラビア撮影を敢行。撮影終了後に警察署へ向かったという。
【裁判と判決】
公判にて、くまぇりは一連の放火について「いたずら気分でやった。騒ぎになるのが楽しかった」、「いらだった気持ちが晴れるような感じ。」、「自分の出身地を有名にしたかった」などと話した。諏訪西中の体育館を焼いた件については「いじめられていた過去を消し去りたかった」とも述べている。
2007年4月9日、長野地裁松本支部はくまぇりに対して懲役10年(求刑は13年)の判決を言い渡した。裁判長は「極めて短絡的かつ自己中心的で、酌量の余地はまったくない」と断罪した。一方で「あなたはまだ若く、出所した後の人生も長い」、「反省して罪を償い、待ってくれている両親らを裏切らずに自分の生きる道を見つけてほしい」と諭したという。
双方控訴せずに確定。くまぇりは20代を丸々刑務所で過ごすこととなってしまった。
【服役と出所】
くまぇりは人生のうちでも特に重要な10年を失うことに絶望した。判決の出る前だが、2007年1月5日には拘置されている警察署内でジャージの上着で自分の首を絞めて自殺を図っている。しかし自殺は未遂に終わり、くまぇりはどうにか一命を取り留める。そうした事も経て、やがて少しずつではあるが生きる目的を見出していった。
2014年以降、月刊誌「創」を通じて公表された獄中手記によれば、3年がかりで高卒認定(いわゆる大検)を取ったり、フォークリフト、危険物取り扱い、ボイラー技士の資格も取得したという。イラストの才能もあり、獄中での生活をマンガ形式で伝えた。
2020年現在、彼女は刑期を終えて既に出所している。裁判長が諭したとおり、これからの長い人生ではどうか正しい道を歩んでもらいたい。
【出典】
読売新聞2006年4月18日「諏訪で不審火相次ぐ=長野」
朝日新聞2006年5月2日「不審火相次ぎ、空き家燃える 諏訪/長野県」
読売新聞2006年5月11日「中学校体育館で不審火?全焼/長野・諏訪」
朝日新聞2006年5月12日「中学の小体育館全焼 不審火、6件目に 諏訪/長野県」
読売新聞2006年7月9日「20歳女に放火容疑で逮捕状 諏訪署、連続不審火の関与追求へ=長野」
毎日新聞2006年7月10日「放火:容疑の20歳女を逮捕 HPに現場写真掲載 長野」
読売新聞2006年7月11日「「火事の写メ、新聞載った」 放火容疑・長野の女、4月の全焼をHPに記述」
毎日新聞2006年7月11日「長野連続放火:逮捕の女が不審火写真を地元紙に投稿」
朝日新聞2006年7月12日「一連の不審火との関連捜査 放火容疑者のHP、出火後すぐ撮影か 下諏訪 /長野県」
読売新聞2007年7月12日「下諏訪の放火 容疑者はタレント志望 逮捕当日も撮影会=長野」
読売新聞2007年7月13日「下諏訪の放火 X容疑者、携帯電話に火災写真=長野」
読売新聞2006年7月19日「写真提供の火事もX被告が放火、認める供述/長野」
毎日新聞2006年7月31日「諏訪連続放火:X被告がほかに8件認める 再逮捕へ」
読売新聞2006年7月31日「長野不審火 8件にも関与自供 放火容疑のX被告、再逮捕へ」
朝日新聞2006年8月1日「放火「出身地を有名にしたくて」「くまぇり」被告、さらに8件自供」
読売新聞2006年9月26日「放火事件 自称「くまぇり」被告、起訴事実2件認める 地裁支部初公判=長野」
読売新聞2007年1月1日「諏訪の連続放火 X被告自供全9件、立件へ 捜査は最終段階へ=長野」
読売新聞2007年1月6日「長野・諏訪で連続放火 X被告が自殺未遂」
読売新聞2007年1月11日「諏訪連続放火 自殺図ったX被告が退院=長野」
読売新聞2007年3月15日「諏訪連続放火公判が結審 被告に懲役13年求刑/長野地裁」
朝日新聞2007年4月10日「連続放火「くまぇり」被告に懲役10年判決「雄弁」な姿、消えた法廷 諏訪/長野県」
読売新聞2007年4月10日「諏訪連続放火 「極めて短絡的」犯行、X被告に懲役10年 地裁判決=長野」
読売新聞2007年4月12日「長野・諏訪連続放火 X被告控訴せず」
7月、諏訪市に住む20歳女性を放火の容疑で逮捕。女性は火災現場に駆けつけて自身のブログでレポートするという「燃えアイドル」としてインターネット上で話題になっていたが、その火災は自らが火をつけたもの、つまり自作自演だったということが明らかになった。彼女の「くまぇり」というハンドルネームは、当時のインターネット・ユーザーにとってはあまりにも有名。
【燃える女】
くまぇりは2005年頃にブログを開設。くまぇりというハンドルネームは、当時人気のグラビア・アイドルである「熊田曜子」と自身の本名である「恵里香」を組み合わせたもの。自らの容姿を熊田曜子にソックリと称した。ブログには後の時代でいうところの「自撮り」を載せたりしていたものの、当時はブログを中心に活動するいわゆる「ネットアイドル」が大勢おり、その中でくまぇりが特別目立っていたわけではなかった。
2006年4月、くまぇりは近所で起こった火災の様子を写真とともにブログ記事にする。これが話題になると、くまぇりは次々と諏訪市周辺で起こった火災をレポートを始める。不謹慎ではないかという指摘もあったが、くまぇりは自分を「燃えアイドル」だと開き直った。撮影した火災の写真が地方紙に掲載されたこともあった。筆者も当時ネットをウォッチングしていたのだが、彼女の活動について「火事の恐ろしさを伝えてくれる」として擁護する者も多数いたと記憶している。くまぇり人気に火がついた。
しかしその後も短期間に近場での火災のレポートが続いたため、流石に怪しむ者が現れた。一連の火事は彼女自身が放火しているのではないかと。まさか放火はしていないだろうが、様々な場所で火災が発生しているにも関わらず毎回すぐに現場に駆けつけられるのは可怪しいと指摘した者もいた。彼女のブログはいよいよ炎上する。
【グラビア撮影と逮捕】
2006年7月8日、遂にくまぇりは逮捕された。5月26日未明に下諏訪町の自動車修理工場にあった乗用車に放火した容疑であった。その後の取り調べで、5月11日の諏訪西中学校体育館放火など8件についても放火を認めた。かつて地方紙に掲載された火事も、くまぇり自らが火を付けたものだった。なお、道路に置き石をした道交法違反の罪にも問われている。インターネット・ユーザーの不安は正しく的中していた。彼女の職業は「飲食店手伝い」と報道されたが、ネット・ユーザーは「火事手伝い」などと揶揄した。
一連の放火で死者が出なかったことは救いといえるかもしれないが、長年続けてきた家業を諦めることになった人もおり、生家を焼かれて思い出のアルバムなどを失った人もいた。損害額はおよそ1億1000万円にも及ぶという。
因みに、7月8日逮捕当日のくまぇりは週刊誌「SPA!」に掲載されるグラビアの撮影を行っていた。彼女のグラビア・デビューである。撮影された写真は彼女が逮捕されてもお蔵入りすることなくそのまま掲載されている。ただしグラビア・アイドルではなく放火の容疑者としての扱いで。見出しは「逮捕を目前にしてあえて撮影に挑んだくまぇりの表情」と付けられた。
当日の朝、くまぇりが撮影のために家を出ようとすると既に警察が待ち構えていたが、彼女は任意同行を拒否し、警察官を連れたままグラビア撮影を敢行。撮影終了後に警察署へ向かったという。
【裁判と判決】
公判にて、くまぇりは一連の放火について「いたずら気分でやった。騒ぎになるのが楽しかった」、「いらだった気持ちが晴れるような感じ。」、「自分の出身地を有名にしたかった」などと話した。諏訪西中の体育館を焼いた件については「いじめられていた過去を消し去りたかった」とも述べている。
2007年4月9日、長野地裁松本支部はくまぇりに対して懲役10年(求刑は13年)の判決を言い渡した。裁判長は「極めて短絡的かつ自己中心的で、酌量の余地はまったくない」と断罪した。一方で「あなたはまだ若く、出所した後の人生も長い」、「反省して罪を償い、待ってくれている両親らを裏切らずに自分の生きる道を見つけてほしい」と諭したという。
双方控訴せずに確定。くまぇりは20代を丸々刑務所で過ごすこととなってしまった。
【服役と出所】
くまぇりは人生のうちでも特に重要な10年を失うことに絶望した。判決の出る前だが、2007年1月5日には拘置されている警察署内でジャージの上着で自分の首を絞めて自殺を図っている。しかし自殺は未遂に終わり、くまぇりはどうにか一命を取り留める。そうした事も経て、やがて少しずつではあるが生きる目的を見出していった。
2014年以降、月刊誌「創」を通じて公表された獄中手記によれば、3年がかりで高卒認定(いわゆる大検)を取ったり、フォークリフト、危険物取り扱い、ボイラー技士の資格も取得したという。イラストの才能もあり、獄中での生活をマンガ形式で伝えた。
2020年現在、彼女は刑期を終えて既に出所している。裁判長が諭したとおり、これからの長い人生ではどうか正しい道を歩んでもらいたい。
【出典】
読売新聞2006年4月18日「諏訪で不審火相次ぐ=長野」
朝日新聞2006年5月2日「不審火相次ぎ、空き家燃える 諏訪/長野県」
読売新聞2006年5月11日「中学校体育館で不審火?全焼/長野・諏訪」
朝日新聞2006年5月12日「中学の小体育館全焼 不審火、6件目に 諏訪/長野県」
読売新聞2006年7月9日「20歳女に放火容疑で逮捕状 諏訪署、連続不審火の関与追求へ=長野」
毎日新聞2006年7月10日「放火:容疑の20歳女を逮捕 HPに現場写真掲載 長野」
読売新聞2006年7月11日「「火事の写メ、新聞載った」 放火容疑・長野の女、4月の全焼をHPに記述」
毎日新聞2006年7月11日「長野連続放火:逮捕の女が不審火写真を地元紙に投稿」
朝日新聞2006年7月12日「一連の不審火との関連捜査 放火容疑者のHP、出火後すぐ撮影か 下諏訪 /長野県」
読売新聞2007年7月12日「下諏訪の放火 容疑者はタレント志望 逮捕当日も撮影会=長野」
読売新聞2007年7月13日「下諏訪の放火 X容疑者、携帯電話に火災写真=長野」
読売新聞2006年7月19日「写真提供の火事もX被告が放火、認める供述/長野」
毎日新聞2006年7月31日「諏訪連続放火:X被告がほかに8件認める 再逮捕へ」
読売新聞2006年7月31日「長野不審火 8件にも関与自供 放火容疑のX被告、再逮捕へ」
朝日新聞2006年8月1日「放火「出身地を有名にしたくて」「くまぇり」被告、さらに8件自供」
読売新聞2006年9月26日「放火事件 自称「くまぇり」被告、起訴事実2件認める 地裁支部初公判=長野」
読売新聞2007年1月1日「諏訪の連続放火 X被告自供全9件、立件へ 捜査は最終段階へ=長野」
読売新聞2007年1月6日「長野・諏訪で連続放火 X被告が自殺未遂」
読売新聞2007年1月11日「諏訪連続放火 自殺図ったX被告が退院=長野」
読売新聞2007年3月15日「諏訪連続放火公判が結審 被告に懲役13年求刑/長野地裁」
朝日新聞2007年4月10日「連続放火「くまぇり」被告に懲役10年判決「雄弁」な姿、消えた法廷 諏訪/長野県」
読売新聞2007年4月10日「諏訪連続放火 「極めて短絡的」犯行、X被告に懲役10年 地裁判決=長野」
読売新聞2007年4月12日「長野・諏訪連続放火 X被告控訴せず」