1999年11月13日、愛知県名古屋市西区稲生町のアパートの一室で、この部屋に住む当時32歳の主婦が刺殺されるという事件が発生した。なお、現場には当時2歳の長男も一緒に居たが、危害は加えられていなかった。

 2020年現在も犯人は特定されないまま未解決事件となっている。ただし、数少ない目撃証言から犯人は女性であると見做されている。

【事件当日のタイムライン】
 11月13日午前9時頃、被害者の夫が出勤のため家を出る。この日は土曜日だが、夫は不動産関係の仕事をしており普段から土曜に出勤していた。また、普段であれば8時半頃に出勤するところ、この日は現場に直行だったため少し遅く家を出たとのこと。

 午前9時半頃、宅配業者が訪れるが応答は無く、不在連絡票が残された。

 午前11時頃、被害者と長男が近所の小児科を訪れる。アパートの住人の目撃情報からすると11時40分頃には帰宅したようである。

 正午から午後1時頃、被害者が殺害されたとみられる。被害者宅で大きな物音がした後で階段を駆け下りる音を聞いたという証言もある。ただし、犯人は被害者宅で血を洗い流しており、玄関の足跡の付き方からしてドアスコープで外の様子を伺っていたと思われ、犯人が被害者を殺害後いつ被害者宅を出たのかはハッキリしない。

 午後12時半から午後2時にかけて、同じアパートの3階に住むママ友が3回電話するも応答無し。

 午後2時頃、大家が家で採れた柿を届けるためにアパートの各部屋を訪れる。そして2時半頃に被害者の部屋(201号室)を訪れるも応答が無い。無施錠だったため部屋に入ってみると、首から血を流して倒れている被害者を発見。直ちに119番通報した。しかしその時点で既に死後2~3時間は経過していた。

 被害者はトレーナーにジーンズ姿。着衣の乱れは無し。死因は失血死。洗面所で首に致命傷を負わされ、どうにかして廊下を出て反対側のダイニングで待つ息子の元へ行こうとして絶命した様子。

【不審な女】
 物証や目撃証言は少ないが、犯人は当時40~55歳くらいの女性とされている。2020年現在では60代以上。県警によれば身長は160センチくらいで、肩まで伸ばした黒髪でパーマが伸びた感じという。黒い服を着ていたと伝えるメディアもある。

 目撃証言が曖昧で、先入観を持たれることを防ぐため、県警による似顔絵は敢えてボカシが入れられていた。しかし捜査に進展が無いため、2020年にはモザイクを外したバージョンが公開されている。同時に、2020年時点で予想される容姿についても示された。

【犯人の痕跡】
 被害者宅の洗面所と、500メートル先にある稲生公園の手洗い場に血を洗い流した形跡があった。犯人は被害者と争って手を負傷したようだ。負傷した手が右か左かは不明だが、血液型はB型ということは特定されている。

 アパートから稲生公園まで点々と血痕が残されていたことから、現場から公園まで徒歩で逃走したのは間違いない。しかし公園から先の移動については不明。犯人は付近に住む人間という可能性もあるが、断定はできない。血痕の残されたルートについても検証されているが、公園までの最短ルートでは必ずしも無く、土地勘があって最初から公園を目指したのか、手を洗う場所を探してたまたま公園に着いたのか判然としない。警察犬も導入したが、マスコミの追っかけも加熱したため一時中断。その間に雨が降ってしまい、それ以上の捜査は続かなくなってしまった。

 足跡から、靴のサイズは24センチ。県警のページでは、実際に履いていた可能性のある靴がいくつか提示されている。

 ダイニングには飲みかけの乳酸菌飲料が一つだけ残されていた。被害者家族はこの飲料を飲んでいなかったらしく、犯人が残した可能性がある。製造番号から販売場所は特定できている。

 他にこれといった物証は公表されていない。凶器となった刃物も発見されていない。

【襲われなかった息子】
 上述のとおり、部屋に一緒に居た2歳の長男には危害は加えられていなかった。室内に物色された跡は無く、何も盗られたりはしていない模様。テレビは付きっぱなしで、テーブルには長男のために作った味噌汁や、普段は食べないらしいカップラーメンがそのままにされていた。強盗ではなく怨恨による殺人となのだろうか。

 被害者は用心深い性格だったともいい、犯人を家にあげたのは顔見知りだったからという推理もできる。子どもを育てる中で、ママ友であるとか、夫の知らない交流関係があっても何ら不思議ではない。事件後に3歳になった長男が「知らないおばちゃんが喧嘩して、ママが死んじゃった」と話している動画もあるが、これは幼児の証言ということもあり、重視されていない。

【20年が経って】
 捜査の役に立つ可能性を考え、また事件を風化させないためにも、被害者の夫は事件から20年以上過ぎても現場アパートの部屋を月5万円で借り続けている。玄関には犯人のものとみられる血の跡が生々しく残る。

 当時2歳だった長男は、男手ひとつで育てられて社会人になった。当時の記憶は無く、母親のことは覚えていないという。「真実を知って記憶が戻ったら怖い。今からその記憶を背負っていくのは重すぎる」とも話す。

 2010年の刑事訴訟法改正により、殺人罪による本件の公訴時効は成立しなくなった。家族は妻/母親を殺害した犯人を今でも追い続けている。

【リンク】
 愛知県警による情報提供呼びかけページは以下のとおり。
 https://www.pref.aichi.jp/police/anzen/sousa/houshoukin/nishi/nishi-199911.html

【出典】
 朝日新聞1999年11月14日「主婦、首刺され死亡 幼児は無事 名古屋・西区の自宅」
 中日新聞1999年11月14日「32歳主婦刺殺される 西区のアパート 首の周り数カ所に傷」
 毎日新聞1999年11月14日「32歳主婦、首切られ殺されるーー名古屋・西区のアパート自室」
 読売新聞1999年11月14日「32歳主婦惨殺される 名古屋・西区のアパートで数か所、首を刺され」
 中日新聞1999年11月15日「西区の主婦殺人 ドア開けた直後、刺される 犯行時間「正午から1時」に絞る」
 中日新聞1999年11月16日「西区の主婦刺殺 路上に血付いた靴跡 愛知県警 徒歩で逃走と断定」
 中日新聞1999年11月18日「西区の主婦刺殺 犯人の靴は24センチ前後 靴跡、北東の住宅地まで続く」
 中日新聞1999年11月19日「西区の主婦殺人 犯人もけが?道路に血痕 愛知県警 病院など聞き込み」
 朝日新聞1999年11月20日「襲撃時の傷?血痕1キロ 名古屋・西区の主婦殺害」
 中日新聞1999年11月21日「西区の主婦刺殺 犯人は女性、血液B型 血痕染色体から断定」
 読売新聞1999年11月22日「名古屋・西区の主婦刺殺 犯人か、女性の血痕 現場から点々、徒歩で逃走?」
 毎日新聞1999年11月23日「結婚の先に白い軽四ーー名古屋・西区の主婦殺害事件、犯人はB型の女」
 朝日新聞1999年12月14日「現場近くで不審な女 名古屋の主婦殺害事件」
 読売新聞1999年12月14日「名古屋・西区の主婦殺害事件 手隠し走り去る髪の長い40代女追う 似顔絵作成」
 毎日新聞2009年6月28日「忘れない:「未解決」を歩く 名古屋市主婦殺害 2歳児の前での凶行」
 中日新聞2015年4月13日「99年 西区の主婦殺害 似顔絵と靴公開」
 朝日新聞2015年4月14日「女の似顔絵を公開 99年、名古屋の主婦殺害「犯人」」
 中日新聞2015年4月14日「西区の主婦殺害容疑者か 270メートル先でも目撃情報」
 毎日新聞2015年4月14日「名古屋・西区の主婦殺害:犯人の似顔絵と靴公開 99年の事件で愛知県警」
 読売新聞2015年4月14日「99年 西区の主婦殺害 容疑者の似顔絵、靴を公開」