1990年12月19日、札幌信用金庫幌北支店に務める生井宙恵さん(なまい・めぐみ、当時24歳)が突如失踪した。
【逃げ切った男】
生井さんは19日の20時半頃に退社。一緒に出た同僚とは地下鉄南北線大通り駅前で別れた。普段であればそこからバスに乗って3キロほど離れた自宅に帰るのだが、この日はそのまま帰宅せずに行方が分からなくなってしまう。母親が20日午後に警察に届け出た。
22日午前、自宅近くの民家の軒下で雪に埋もれた遺体を発見。首の動脈に達する深い刺し傷があり、他殺と断定された。遺体の着衣の乱れから、帰宅途中に乱暴目的で襲われ、抵抗したために殺害されたとみられている。また付近では、帽子、靴、ボストンバッグなどが次々と発見された。
その頃、近くに住む一人の男が行方をくらませていた。男の名は長田良二。生井さんの高校時代の後輩である。長田の家を捜索したところ「大変なことをしてしまった。逃げる」などと書かれたメモが見つかり、さらに生井さんのボストンバッグに入っていた預金通帳から検出された指紋が長田のものと一致。警察は長田が生井さん殺しの犯人であると断定し、殺人容疑で全国指名手配する。
しかし長田の行方は掴めない。情報が寄せられるたび、警察は東京や沖縄まで日本全国を駆け巡ったが全て空振りだった。2005年12月19日、公訴時効成立。
【時効後も諦めない】
2007年9月28日、生井さんの遺族は長田を相手に民事訴訟を起こす。公訴時効成立により刑事責任は既に問えないが、民事で相手方が所在不明のまま殺人事件の犯人と認定されることを求め、その認定に基づいて損害賠償を請求するという異例の裁判である。遺族側は捜査資料などを証拠として提出。長田が出廷しないまま裁判は1回で結審した。
2008年3月31日、札幌地裁判決。判決は「何らかの違法な手段で殺害行為に関与したことは明らか」として長田の犯行を認め、約7500万円の損害賠償金を支払うことを命じた。遺族にとっては一応勝訴といえるが、長田の行方が分からない以上、財産の差し押さえなどもできず、賠償金が支払われる見込みは無い。
2017年2月7日、遺族は再び札幌地裁に提訴。民法の規定では確定判決の権利は10年で時効を迎える。そのため、長田への賠償請求権が消滅していないことを確認する訴訟であった。
2017年3月23日、札幌地裁は請求権が引き続き有効であることを認めた。しかしこのまま長田が現れなければ、2027年には再び確認訴訟を起こす必要がある。生井さんの母は2017年の判決時点で80歳。父親は既に世を去った。弁護士費用や印紙代も大きな負担となる。長田が現在生きているのかどうかも不明のまま、2021年現在も終わりの見えない辛い戦いが続いている。
【出典】
朝日新聞1990年12月22日「女性の変死体は不明のOLか 札幌」
毎日新聞1990年12月22日「札幌でOL行方不明、公開捜査ーー札幌西署が捜査本部設置」
毎日新聞1990年12月22日「雪の中、不明のOL?遺体で発見、他殺か自宅近く」
読売新聞1990年12月22日「札幌で帰宅途中のOL失跡」
読売新聞1990年12月22日「札幌で行方不明のOLの遺体 自宅近くで発見」
朝日新聞1990年12月23日「行方不明のOL、他殺と断定 札幌」
毎日新聞1990年12月23日「遺体は不明OLと確認 首などに傷、殺人と断定ーー札幌西署」
毎日新聞1990年12月24日「首を刃物で切られた失血死ーー札幌のOL殺人」
毎日新聞1990年12月27日「OL殺しをほのめかすメモを残し、無職の男性が姿消すーー札幌」
朝日新聞1990年12月30日「近所の男性を手配 札幌のOL殺人」
毎日新聞1990年12月30日「高校の後輩、長田良二容疑者を指名手配ーー札幌・OL殺人事件」
読売新聞1990年12月30日「札幌信金の女子職員殺しで手配」
朝日新聞2005年11月19日「時効へ1ヵ月「長田容疑者の情報を」遺族、呼びかけ懸命 信金女性殺人」
朝日新聞2005年12月19日「札幌の女性殺害、時効が成立 懸賞金実らず」
産経新聞2005年12月19日「札幌信金OL殺人、時効が成立 指名手配の男、逃亡15年」
毎日新聞2005年12月19日「札幌信金職員殺害:時効が成立」
読売新聞2005年12月19日「札幌の信金職員殺人事件 時効が成立」
朝日新聞2007年9月29日「遺族、手配の男提訴 札幌の信金職員殺害、時効成立」
毎日新聞2007年9月29日「札幌信金職員殺害:時効後、遺族が提訴 「元容疑者の民事責任追及」」
読売新聞2007年9月29日「札幌・信金事件 時効殺人「手配」男を提訴 遺族「犯人を明らかに」」
読売新聞2008年1月15日「札幌・信金事件 殺人時効の男性、弁論期日決まる 不明のまま賠償提訴」
朝日新聞2008年2月26日「「民事が頼み」母が意見陳述 信金職員殺害の賠償訴訟 札幌地裁」
毎日新聞2008年3月31日「札幌信金職員殺害:時効の男、7500万円賠償命令 民事も加害認定ーー地裁判決」
朝日新聞2008年4月1日「不明の元容疑者に賠償命令 時効の殺人、民事で認定 札幌」
毎日新聞2008年4月1日「札幌信金職員殺害:「時効の男、関与明らか」遺族「うれしい」ーー地裁判決」
朝日新聞2017年1月31日「「損賠効力、継続を」母親新たに提訴へ 札幌の信金職員殺害事件」
読売新聞2017年2月7日「信金女性殺害 賠償判決時効中断 提訴へ 権利確認求め」
朝日新聞2017年2月8日「「賠償判決の効力継続を」信金職員殺害事件、遺族母親が提訴」
毎日新聞2017年2月8日「札幌信金職員殺害:請求権確認、遺族が提訴 賠償金支払いなく」
朝日新聞2017年3月17日「損賠効力継続訴え、母親「娘に償いを」信金職員殺害事件巡り初弁論」
毎日新聞2017年3月17日「札幌信金職員殺害:賠償、時効中断再提訴 男出頭せず結審 地裁口頭弁論」
朝日新聞2017年3月24日「損賠請求権、 効力継続認める 信金職員殺害事件 札幌地裁判決」
産経新聞2017年3月24日「賠償の時効中断認める」
毎日新聞2017年3月24日「札幌信金職員殺害:賠償時効中断」
読売新聞2017年3月24日「女性殺害 賠償請求権認める 札幌地裁判決 遺族「時効延長か廃止を」」
【逃げ切った男】
生井さんは19日の20時半頃に退社。一緒に出た同僚とは地下鉄南北線大通り駅前で別れた。普段であればそこからバスに乗って3キロほど離れた自宅に帰るのだが、この日はそのまま帰宅せずに行方が分からなくなってしまう。母親が20日午後に警察に届け出た。
22日午前、自宅近くの民家の軒下で雪に埋もれた遺体を発見。首の動脈に達する深い刺し傷があり、他殺と断定された。遺体の着衣の乱れから、帰宅途中に乱暴目的で襲われ、抵抗したために殺害されたとみられている。また付近では、帽子、靴、ボストンバッグなどが次々と発見された。
その頃、近くに住む一人の男が行方をくらませていた。男の名は長田良二。生井さんの高校時代の後輩である。長田の家を捜索したところ「大変なことをしてしまった。逃げる」などと書かれたメモが見つかり、さらに生井さんのボストンバッグに入っていた預金通帳から検出された指紋が長田のものと一致。警察は長田が生井さん殺しの犯人であると断定し、殺人容疑で全国指名手配する。
しかし長田の行方は掴めない。情報が寄せられるたび、警察は東京や沖縄まで日本全国を駆け巡ったが全て空振りだった。2005年12月19日、公訴時効成立。
【時効後も諦めない】
2007年9月28日、生井さんの遺族は長田を相手に民事訴訟を起こす。公訴時効成立により刑事責任は既に問えないが、民事で相手方が所在不明のまま殺人事件の犯人と認定されることを求め、その認定に基づいて損害賠償を請求するという異例の裁判である。遺族側は捜査資料などを証拠として提出。長田が出廷しないまま裁判は1回で結審した。
2008年3月31日、札幌地裁判決。判決は「何らかの違法な手段で殺害行為に関与したことは明らか」として長田の犯行を認め、約7500万円の損害賠償金を支払うことを命じた。遺族にとっては一応勝訴といえるが、長田の行方が分からない以上、財産の差し押さえなどもできず、賠償金が支払われる見込みは無い。
2017年2月7日、遺族は再び札幌地裁に提訴。民法の規定では確定判決の権利は10年で時効を迎える。そのため、長田への賠償請求権が消滅していないことを確認する訴訟であった。
2017年3月23日、札幌地裁は請求権が引き続き有効であることを認めた。しかしこのまま長田が現れなければ、2027年には再び確認訴訟を起こす必要がある。生井さんの母は2017年の判決時点で80歳。父親は既に世を去った。弁護士費用や印紙代も大きな負担となる。長田が現在生きているのかどうかも不明のまま、2021年現在も終わりの見えない辛い戦いが続いている。
【出典】
朝日新聞1990年12月22日「女性の変死体は不明のOLか 札幌」
毎日新聞1990年12月22日「札幌でOL行方不明、公開捜査ーー札幌西署が捜査本部設置」
毎日新聞1990年12月22日「雪の中、不明のOL?遺体で発見、他殺か自宅近く」
読売新聞1990年12月22日「札幌で帰宅途中のOL失跡」
読売新聞1990年12月22日「札幌で行方不明のOLの遺体 自宅近くで発見」
朝日新聞1990年12月23日「行方不明のOL、他殺と断定 札幌」
毎日新聞1990年12月23日「遺体は不明OLと確認 首などに傷、殺人と断定ーー札幌西署」
毎日新聞1990年12月24日「首を刃物で切られた失血死ーー札幌のOL殺人」
毎日新聞1990年12月27日「OL殺しをほのめかすメモを残し、無職の男性が姿消すーー札幌」
朝日新聞1990年12月30日「近所の男性を手配 札幌のOL殺人」
毎日新聞1990年12月30日「高校の後輩、長田良二容疑者を指名手配ーー札幌・OL殺人事件」
読売新聞1990年12月30日「札幌信金の女子職員殺しで手配」
朝日新聞2005年11月19日「時効へ1ヵ月「長田容疑者の情報を」遺族、呼びかけ懸命 信金女性殺人」
朝日新聞2005年12月19日「札幌の女性殺害、時効が成立 懸賞金実らず」
産経新聞2005年12月19日「札幌信金OL殺人、時効が成立 指名手配の男、逃亡15年」
毎日新聞2005年12月19日「札幌信金職員殺害:時効が成立」
読売新聞2005年12月19日「札幌の信金職員殺人事件 時効が成立」
朝日新聞2007年9月29日「遺族、手配の男提訴 札幌の信金職員殺害、時効成立」
毎日新聞2007年9月29日「札幌信金職員殺害:時効後、遺族が提訴 「元容疑者の民事責任追及」」
読売新聞2007年9月29日「札幌・信金事件 時効殺人「手配」男を提訴 遺族「犯人を明らかに」」
読売新聞2008年1月15日「札幌・信金事件 殺人時効の男性、弁論期日決まる 不明のまま賠償提訴」
朝日新聞2008年2月26日「「民事が頼み」母が意見陳述 信金職員殺害の賠償訴訟 札幌地裁」
毎日新聞2008年3月31日「札幌信金職員殺害:時効の男、7500万円賠償命令 民事も加害認定ーー地裁判決」
朝日新聞2008年4月1日「不明の元容疑者に賠償命令 時効の殺人、民事で認定 札幌」
毎日新聞2008年4月1日「札幌信金職員殺害:「時効の男、関与明らか」遺族「うれしい」ーー地裁判決」
朝日新聞2017年1月31日「「損賠効力、継続を」母親新たに提訴へ 札幌の信金職員殺害事件」
読売新聞2017年2月7日「信金女性殺害 賠償判決時効中断 提訴へ 権利確認求め」
朝日新聞2017年2月8日「「賠償判決の効力継続を」信金職員殺害事件、遺族母親が提訴」
毎日新聞2017年2月8日「札幌信金職員殺害:請求権確認、遺族が提訴 賠償金支払いなく」
朝日新聞2017年3月17日「損賠効力継続訴え、母親「娘に償いを」信金職員殺害事件巡り初弁論」
毎日新聞2017年3月17日「札幌信金職員殺害:賠償、時効中断再提訴 男出頭せず結審 地裁口頭弁論」
朝日新聞2017年3月24日「損賠請求権、 効力継続認める 信金職員殺害事件 札幌地裁判決」
産経新聞2017年3月24日「賠償の時効中断認める」
毎日新聞2017年3月24日「札幌信金職員殺害:賠償時効中断」
読売新聞2017年3月24日「女性殺害 賠償請求権認める 札幌地裁判決 遺族「時効延長か廃止を」」