2005年2月14日深夜、東京府中市の信金職員が、強盗に入ろうとしていたとみられる不審な男に刃物で刺殺された。犯人の男の身元は2021年現在も特定できておらず、未解決事件となっている。

【深夜強盗】
 2005年2月14日午後23時50分過ぎ、多摩中央信用金庫府中支店営業課課長の後藤博樹さん(当時39歳)は残業を終えて同僚の男性職員と共に帰宅するところだった。しかし、店内を消灯して職員専用の通用口を出た2人を出迎えたのは、なんと刃物を手にした不審な男であった。後藤さんは男を取り押さえようと慌てて飛びかかり、同僚は店内に引き返して110番通報を行う。

 同僚が再び現場に戻ってくると、不審な男は既に立ち去っており、後藤さんが血を流してしゃがみこんでいた。後藤さんは頭や腹などを刺されており、4時間後に死亡。カバンや財布などは奪われていなかった。警視庁は殺人事件として捜査を開始する。

 なお、23時30分頃に職員3人が先に退社した際には敷地内に不審な様子はなかったとされる。男は店舗の照明が消えたことを確認し、支店が無人になったところを狙って強盗に入ろうとしていたのであり、そこを丁度仕事を終えて出てきた後藤さんらと鉢合わせになったものと思われる。

【犯人像】
 同僚の男性職員は犯人の男の特徴を証言した。詳細は後掲の警視庁ホームページを参照されたい。それによれば、男は(当時)20〜40歳くらいで、身長は170〜180センチ。痩せ型で、黒っぽいニット帽と黒いジャンパー、ジーパン、白い運動靴を履いていたという。また、血液型はO型と公表されている。

 現場では犯人によるものとみられる遺留品も見つかっている。そのうち凶器となった柳刃包丁と、犯人によるO型の血のついた白いゴム手袋は100円ショップで入手できる大量生産品。唯一特徴的なのは腕時計で、それはGUESSブランドの1995年〜1999年頃まで販売されていたモデルだという。しかもバンドはオリジナルのものから、伸縮性のある蛇腹式のものに交換されていた。警察は「一度目にしたら記憶に残るはず」と話すが、未だ有力な情報提供は得られていない模様。

 男の逃走中の目撃証言もほとんど無い。現場は府中駅近くの繁華街で、事件当日も多くの人が行き交い、客待ちのタクシーも並んでいたというが、信金の職員通用口は建物裏手にあって通りからは見えにくいのである。また、周辺の路地は複雑に入り組んでいるため、犯人に土地勘があったとしたら目立たずに逃げ去るルートを知っていても不思議ではない。

 数少ない手がかりは現場付近の防犯カメラ映像だ。警察は内部で慎重に解析を進めており断片的な情報だけが報道されていたが、事件から10年が経った2015年2月12日になってようやく画像を一般公開した。果たしてそこに映っていたのは2月14日の午後23時52分〜53分頃、府中駅方面へ走り去る男であった。その服装は上記証言とも一致する。警察は犯人の目星がついていたのならばともかく、そうでないならばもっと早くこの画像を公開すべきだっただろう。事件解決は最早果てしなく遠くなってしまった。

 本事件を受けて、府中市は市内の繁華街に30台以上の防犯カメラを整備したという。

【参考リンク】
 警視庁による情報提供呼びかけページは以下。
 https://www.keishicho.metro.tokyo.jp/jiken_jiko/ichiran/ichiran_11-20/fuchu.html

【出典】
 朝日新聞2005年2月15日「信金職員刺され死亡、 通用口に刃物持った男 東京・府中」
 毎日新聞2005年2月5日「殺人:信金課長を刺殺 通用口で待ち伏せ、若い男逃走」
 読売新聞2005年2月15日「信金課長、支店駐車場で刺殺される 若い男逃走」
 朝日新聞2005年2月16日「現場近くに金属製時計 東京・府中、信金課長刺殺」
 毎日新聞2005年2月16日「東京・府中の信金殺人:犯人の男、強盗目的で待ち伏せか」
 読売新聞2005年2月16日「東京・府中の信金刺殺事件 犯人、消灯確認か 強盗目的、退社最後を狙う?」
 読売新聞2005年2月16日「刺殺の多摩信金課長 正義感、刃物男と格闘 顔と腹に傷、力尽く」
 読売新聞2005年2月17日「多摩中央信金刺殺事件 防犯カメラの映像分析 チラシで情報呼びかけ」
 毎日新聞2005年2月22日「東京・府中の信金殺人:現場に残された犯人の時計公開」
 読売新聞2005年2月22日「東京・府中の信金職員刺殺事件 犯人の腕時計の写真公開」
 読売新聞2005年3月15日「府中の信金課長刺殺1か月 繁華街、少ない目撃者 犯人像絞れず」
 読売新聞2005年8月7日「東京・府中の信金職員殺害 犯人の血のついた手袋発見 防犯ビデオに逃げる姿」
 朝日新聞2005年8月16日「府中・信金殺人、犯人はO型の男 事件半年で特徴公開」
 読売新聞2005年9月13日「府中の繁華街に防犯カメラ31基設置へ 信金事件で市民の不安受け」
 産経新聞2006年2月14日「多摩信金殺人から1年 納骨せず、悲しみの日々 遺族ら「早く犯人捕まえて」
 朝日新聞2006年9月8日「タクシーに情報募るチラシ 府中の殺人、犯人?の時計」
 毎日新聞2015年2月10日「東京・府中の信金職員殺人:発生から10年 事件6日前、不審な男 駐車場で目撃」
 産経新聞2015年2月13日「府中 信金課長刺殺事件あす10年 犯人DNA型再鑑定 最新技術で特定急ぐ 防犯カメラ画像も初めて公開」
 毎日新聞2015年11月2日「忘れない「未解決」を歩く 府中・信金職員殺害事件」