【姿を消した女児】
 2011年9月13日午後14時頃、大分県日出町川崎にあるスーパー「マルショク川崎店」の駐車場に停められた車から女児K(当時2歳9ヶ月)が行方不明になった。女児の母親Y(当時34歳)は、エンジンをかけたまま施錠せずに車から離れ、約5分して買い物から戻ると女児の姿がなかったという。

 9月15日、女児は事件に巻き込まれた可能性が高いとして、大分県警は公開捜査に踏み切る。スーパー店外に防犯カメラは無かったものの、女児Kは足が不自由なため1人でドアを開けて歩き出して事故に遭ったという見方を否定。電話などがかかってこないため、身代金目的の誘拐の可能性は低いとしつつ、他の目的で連れ去った可能性を指摘した。

【女児の行方】
 有力な目撃情報が無く、県警による大規模な捜索でもKの行方を掴むことができずにいたが、女児が行方不明になっておよそ5ヶ月後経ってから事件は急展開を迎える。Yの夫が不眠が続き食事もろくに取れていない妻を気遣ったところ、Yは突如として「娘がいなくなったと話していたが、実は娘の遺体を近所の雑木林に遺棄した」自らの犯行を打ち明け始めたのである。夫は妻を連れて日出警察署へ出頭。2012年2月5日、Yを逮捕。

 Yの立ち会いの元、自宅から2キロほど離れたところにある雑木林を捜索すると、幼児の上半身の骨を発見。DNA鑑定の結果、それが女児Kの遺体であると確認された。

 県警は、スーパーの買い物客が少なかった時間帯とはいえ、わずか5分の買い物の間に足の不自由な女児を誰にも見つかることなく連れ去り出せるのかを疑問視していた。また、同日にYが立ち寄った衣料品店のカメラも解析したところ女児の姿は全く映っていなかったという。そのため、Yに対して継続的に事情聴取を行っていたのだった。

【真実】
 Yは「娘が死んでいるのを見つけて気が動転して遺棄してしまった。私は殺していない。」と話した。曰く「9月12日の夜、小学1年生の長男とKを2階の部屋で寝かしつけ、自分は1階で就寝したのだが、翌朝Kが起きて来ず2階に様子を見に行ったところ息をしていなかった。そのとき、Kの顔には毛布がかかっていた」という。因みに夫はこの日は出張中で不在であった。

 Yは長男を小学校に送り届けてから自宅に戻ってKの死体遺棄を決行。遺体は衣服を脱がせて裸にしてからタオルケットをかけ、顔にはハンカチをかけるという異様な状態であったが、Yによれば「誰かに見つけて欲しかった」のだという。穴を掘って埋めるようなことはしていなかった。そして衣料品店でKの育児用品などを購入した後、スーパーに立ち寄って「娘が車からいなくなった。防犯カメラを確認させてほしい」と訴え、110番通報をした…。

【裁判と判決】
 女児Kの死因を特定することはできず、Yの語った死亡経緯の真偽を確かめる術はない。結局、Yは殺人罪ではなく死体遺棄罪でのみ起訴されることとなった。なお、娘がいなくなったという嘘の通報をした件については軽犯罪法違反で送検されているが、「事案が軽微」であるとして不起訴処分となっている。

 2012年4月18日、初公判。Yは「まず、娘には寂しいところに置き去りにしてしまって本当に酷いことをした。夫の社会的信用を失わせ、親族も後ろ指を指されるような生活しにくい状況にした。近隣住民や警察にも迷惑をかけた」と涙ながらに謝罪した。Yの父親も出廷し、拉致事件が娘自身による死体遺棄事件であったと判明したときの衝撃を率直に述べたが、「こんな人間だが、大切な娘のことは最後まで面倒をみる」として身元を引き受けることを表明した。

 検察は、遺体を発見されやすいようにするなど一定の酌むべき事情は認められるとしつつ、Kの尊厳を著しく侵害しており刑事責任は重いと指摘して懲役2年を求刑。弁護側は「真摯に謝罪し、再犯の可能性は低い」として執行猶予付きの判決を求めた。Yは「どんな判決でも受け入れる」と述べ、最後に深々と頭を下げた。

 2012年5月29日、大分地裁判決。懲役2年・執行猶予3年の有罪判決。判決は遺棄行為を批難し、犯行後の情状も悪いと指摘する一方で、犯行を自ら打ち明け真摯に反省していると執行猶予の理由を述べた。裁判長は「苦しい判断を迫られた時、誤ると自分に跳ね返ってくる。二度とこんなことは起きないと信じます」と語ってYを諭したという。

 2012年6月13日、検察も弁護側も控訴せず、判決が確定。なお、Yは初公判後に夫との離婚が成立している。

【関連】
 Yが逮捕された日、共同通信社は「Yと娘Kの写真」として、全く無関係の母子の写真を配信した。これにより、加盟する全国の新聞社が翌日の朝刊にその写真を掲載してしまう事態になった。写真を入手した共同通信福岡支社の記者が確認・検証を怠り、社内では「テレビで出ている写真と似ていない」という指摘もありながら、既に検証済みとして再確認が行われなかったという。この事件により、共同通信社の編集局長は更迭。その他関係者も減給などの処分が行われた。

 さらにOAB大分朝日放送はニュース番組において、Yと誤ってYの親族女性の映像を「容疑者」として放送してしまった。後にこの親族女性は名誉を傷つけられたとして330万円の損害賠償を求めてOABを訴えるが、OABから和解金が支払われ、訴えを取り下げている。

【出典】
 朝日新聞2011年9月14日「2歳女児が不明 大分のスーパー、母「車に残した」
 読売新聞2011年9月14日「車内の2歳女児不明 大分のスーパー 母離れた5分間」
 読売新聞2011年9月14日「不明女児 捜索続く 大分」
 朝日新聞2011年9月15日「大分女児不明、なお捜索続く 公開捜査に切り替え」
 読売新聞2011年9月15日「大分女児不明 公開捜査 事件巻き込まれた可能性」 
 朝日新聞2011年10月12日「目撃証言少なく捜査難航 大分・女児不明、あす1カ月」
 読売新聞2011年10月13日「目撃情報なく捜査難航 大分 女児不明から1か月」 
 朝日新聞2012年2月6日「不明女児の母逮捕 遺体捨てた疑い 大分」
 毎日新聞2012年2月6日「大分・日出の女児不明:住民「なぜ母親が…」最悪の結果に絶句」
 産経新聞2012年2月6日「子供どこ 悲劇の母演出 育児悩み孤独生活 不明5ヶ月「信じられない」
 産経新聞2012年2月6日「不明女児の母親逮捕 遺棄容疑 雑木林から骨片 大分」
 読売新聞2012年2月6日「大分女児不明 母を逮捕 遺体遺棄容疑 供述の雑木林に骨」
 読売新聞2012年2月6日「大分女児遺棄「自宅で死んでいた」 Y容疑者、殺害は否定」
 産経新聞2012年2月7日「容疑の母「殺していない」大分女児不明 夫に遺棄告白、出頭」
 産経新聞2012年2月7日「大分女児不明 別人の写真を共同通信配信」
 読売新聞2012年2月7日「大分女児遺棄 「就寝中 娘の顔に毛布」Y容疑者 自分は別室と供述」
 読売新聞2012年2月7日「大分女児遺棄「遺体にタオルケット」Y容疑者「見つけてほしかった」
 朝日新聞2012年2月8日「「娘の異変気づかず」遺棄容疑の母供述 大分」
 産経新聞2012年2月8日「「長男を送った後、捨てた」大分女児遺棄 容疑の母供述」
 朝日新聞2012年2月9日「人骨は不明女児 日出・死体遺棄、大分県警が断定」
 毎日新聞2012年2月10日「大分・日出の女児遺棄:雑木林の遺体「Kちゃん」県警が確認」
 毎日新聞2012年2月12日「共同通信:別人の写真配信を検証」
 産経新聞2012年2月17日「共同通信編集局長を更迭 大分母子の別人写真配信、処分」
 毎日新聞2012年2月17日「共同通信:別人写真配信 編集局長を更迭」
 朝日新聞2012年2月23日「連れ去り自作自演、容疑の母を書類送検 大分の娘遺棄」
 朝日新聞2012年2月24日「女児遺棄罪で母を起訴 死因特定に至らず 大分地検」
 産経新聞2012年2月24日「大分の女児遺棄で母親起訴」
 毎日新聞2012年2月24日「大分・日出の女児遺棄:母、死体遺棄罪で起訴 虚偽申告は起訴猶予に」
 読売新聞2012年2月24日「大分女児遺体 母親、死体遺棄罪で起訴 死因特定できず」
 朝日新聞2012年2月25日「日出町の女児死亡、事件性なし 物証見つからず 大分地検」
 朝日新聞2012年4月18日「女児遺棄、懲役2年を求刑 被告の母、罪認める 大分地裁初公判」
 読売新聞2012年4月18日「大分女児遺棄 母親に懲役2年求刑 地検 死亡の経緯は触れず」
 読売新聞2012年4月19日「日出・女児遺棄 被告、涙ながらに謝罪 傍聴人「全容知りたかった」=大分」
 読売新聞2012年4月19日「映像取り違え放送 O A Bを賠償提訴 Y被告の親族」
 読売新聞2012年5月22日「映像間違え O A B和解」
 朝日新聞2012年5月29日「女児遺棄、母に有罪判決 反省考慮、執行猶予3年 大分地裁」
 読売新聞2012年5月29日「女児遺棄 母に猶予判決「犯情は悪いが反省」大分地裁」
 朝日新聞2012年5月30日「裁判長の言葉、被告は涙 住民ら厳しい声 女児遺棄事件、大分地裁判決」
 産経新聞2012年5月30日「女児死体遺棄、母親に猶予付き判決 大分地裁」
 読売新聞2012年5月30日「2歳女児遺棄 母に猶予判決 大分地裁」
 読売新聞2012年6月13日「大分女児遺棄事件 母親の有罪が確定」