2016年3月10日夜、愛知県蒲郡市の民家で、この家に住む杉浦加津代さん(73歳)が死亡しているのが発見された。首に携帯電話の充電器のコードが巻かれ、司法解剖の結果、死因は窒息死と判明。愛知県警は殺人事件として捜査を開始するが、2022年6月現在も犯人は特定できていない。捜査継続中。

【タイムライン】
 
3月9日午前8時頃杉浦さんは同じ敷地内の別宅に住む長男の妻(当時51歳)が出勤するのを見送った。
同日午前10時半杉浦さんは毎月9日は近所の寺で行われる読経に参加していたが、この日は姿を見せなかった。
同日昼頃長男の妻が一時帰宅。普段は杉浦さんと一緒に昼食をとっているが、この日は呼びかけても応答が無かったため一人で食事を済ませている。
同日夕方近所の住人が杉浦さんと立ち話をしたと証言しているが、内容に曖昧な点があり疑問視されている。
3月10日午前6時頃長男の妻が九州出張のため家を出る。家の前で迎えに来た上司の車に乗り込むが、この時に杉浦さんは見送りに来なかった。この日の新聞朝刊も取り込まれないままだった。
同日午後22時頃長男(当時51歳)が中国出張から帰る。杉浦さんと連絡が取れなくなっていることを近所の住人から聞き、杉浦さん宅に入ったところで遺体を発見。
 
死亡推定時刻は9日昼〜10日昼頃とされているが、上記タイムラインから9日夕方に杉浦さんと話したとする近隣住人の証言が打ち消された場合、9日午前8時〜10時半のおよそ2時間半に絞られることになる。

【犯人像】
 玄関は施錠されていたが、1階居間の窓ガラスにこぶし大の穴が開けられ、クレセント錠が開けられていた。犯人はここから侵入、脱出したとみられる。窓ガラスのひびの入り方からみてマイナスドライバーなどの工具で割ったようであり、これは空き巣がよく使う手法だという。

 室内に目立った物色の形跡は無かったが、杉浦さんの財布から紙幣が見つからず、犯人が持ち去ったかもしれない。また、凶器とみられる携帯電話の充電器のコードは杉浦さんが普段使っていたものと同じタイプで、犯人は凶器を予め用意せず現場にあったものを使ったとみられる。杉浦さんが他人から恨みを買うような事情も確認されないため、怨恨というよりも行きずりの強盗による場当たり的な犯行の線が濃厚だ。

【捜査】
 杉浦さん宅と長男夫婦宅は渡り廊下で繋がっている。渡り廊下には扉が一枚あり、杉浦さん宅側から機械式のロックをかけることができるのだが普段は無施錠だったという。しかし事件発覚当時は何故か鍵がかけられていた。上述の通り玄関も施錠されていたため、長男は無施錠だったトイレの窓から杉浦さん宅に入らざるを得なかった。

 また、遺体が発見されたのは1階仏間だったが、隣接する和室には遺体を引き摺ったような血痕が数十センチあった。おそらく杉浦さんは和室で殺害されて仏間へと移されたのだろう。和室は玄関から見える位置にあるが、仏間ならば障子が陰になって見えない。渡り廊下が施錠されていた件も含め、犯人が遺体を隠し、事件発覚を遅らせようとした意図が伺える。

 その他、遺体の頭部に半透明のポリ袋がかけられていたことが報じられている。

【真相を求めて】 
 遺体が発見された3月10日は実は杉浦さんの誕生日であった。長男夫婦は旅行好きの母のために温泉旅行のチケットを用意していたが、それは使われることのないまま棺に入れられることになってしまった。

 杉浦さんは事件当時70歳を過ぎていたが、周囲からは「100歳まで生きる」と言われるほど元気で、「農業が天職」と話しながら畑で作った美味しいミカンを地域に届けていた。そんな中で事件は突然起きた。高齢女性一人の命だけでなく、家族や友人が彼女と過ごすはずだったかけがえのない時間までもが奪われたのである。

 長男夫婦は母のミカン畑を継ぎながら今も同じ家に暮らしている。最愛の母が二度と戻ってこないと理解しつつも、犯人が逮捕されないことには自分たちはいつまでも「未解決事件の遺族」のままであり、早く事件の真相を明らかにして心の区切りをつけたいと話す。時間は刻々と過ぎていくが果たして事件の真相は明らかになるのか。愛知県警の捜査手腕が問われている。

【その他の事件】
 愛知県における未解決殺人事件
 ・名古屋市中川区パチンコ「高尾」社長殺人事件(2018年)
 ・岡崎市会社役員男性殺人事件(2013年)
 ・豊田市女子高生殺害事件(2008年)
 ・名古屋市中川区老夫婦強盗殺人事件(2006年)
 ・豊明市母子4人殺害放火事件(2004年)
 ・名古屋市西区主婦殺害事件(1999年)
 ・名古屋市中川区妊婦切り裂き殺人事件(1988年)*公訴時効成立

【出典】
 朝日新聞2016年3月11日「73歳死亡、首にコード 自宅、引きずられ?血痕 蒲郡」
 朝日新聞2016年3月11日「1階窓割り侵入、殺害か 玄関は鍵かかったまま 蒲郡」
 毎日新聞2016年3月11日「女性死亡:73歳自宅で 首にコード、殺人可能性 愛知・蒲郡」
 毎日新聞2016年3月11日「愛知・蒲郡の女性死亡:1階窓から侵入か ガラス割れる 愛知県警、殺人と断定」
 朝日新聞2016年3月12日「女性の死因は窒息死 充電器コードで絞殺か 蒲郡」
 毎日新聞2016年3月12日「愛知・蒲郡の女性殺害:遺体の顔にポリ袋 引きずった血痕も」
 毎日新聞2016年3月12日「愛知・蒲郡の女性殺害:長男宅への連絡路施錠 普段は鍵せず意図的か」
 読売新聞2016年3月12日「女性殺害 窓割り侵入か 蒲郡 玄関、勝手口は施錠」
 朝日新聞2016年3月13日「10日朝にかけ殺害か 朝刊取り込まれず 蒲郡」
 毎日新聞2016年3月13日「愛知・蒲郡の女性殺害:10日午前までに犯行?凶器、被害女性所持品か」
 読売新聞2016年3月13日「蒲郡女性殺害 長男宅への扉 施錠 遺体発見遅らせる目的か」
 読売新聞2016年3月14日「蒲郡女性殺害 犯行 午前6時以降か 発見当日 見送りに現れず」
 朝日新聞2016年3月15日「発覚前日午前に襲撃の可能性も 蒲郡の女性殺害」
 読売新聞2016年3月18日「蒲郡女性殺害 空き巣多用の工具使用か 窓の鍵付近 三角形に割る」
 毎日新聞2020年11月22日「あの日から:/上 母は自宅で一人、命絶たれ 奪われた恩返しの時間」
 読売新聞2021年3月6日「「私たちの時間も奪われた」蒲郡女性殺害から5年 長男夫妻 胸の内語る」
 朝日新聞2021年3月9日「ミカンの木・笑顔…母を誰が 蒲郡の殺害5年、犯人逮捕願う遺族」
 朝日新聞2022年3月10日「なぜ母が、募る歯がゆさ 蒲郡の女性殺害から6年」
 読売新聞2022年3月11日「蒲郡の殺人事件 情報提供呼びかけ」
 毎日新聞2022年3月16日「あの日から:2016年蒲郡女性殺人事件 七回忌、苦しみ癒えず 解決願う遺族「心に区切りを」」